最新記事

日本企業

オートバイ業界初の女性トップ桐野英子新社長はなぜ「漢カワサキ」で認められたのか

2021年12月12日(日)17時40分
河崎三行(ライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

フランス市場へ導入するや大ヒットを記録したカワサキ『Z1000』

桐野氏がKMF社長時代に開発をリクエストし、フランス市場へ導入するや大ヒットを記録した『Z1000』  写真提供=カワサキモータース

にもかかわらず当時のカワサキがフランスで展開していたのは、カウル付きの高価なモデルばかり。そこで桐野氏は同じ事情を抱えた欧州他国のカワサキ現地法人も巻き込み、ヨーロッパ市場全体の要望として、使いこなせる性能でリーズナブルな価格のネイキッドモデルを開発するよう、親会社に訴えた。

その結果、欧州向けモデルとして誕生し、2003年にフランス市場へ投入されたのがZ1000である。

「おかげさまで大当たり。KMFはヨーロッパで最大数のZ1000を売り、国内シェア1位を奪い返しました」

フランスには、足かけ8年駐在。

「振り返ってみると、とても充実していたという印象しか残ってないんです。バイク愛があればどんな相手とも意思疎通できる、共通言語になり得るという経験は、日本への帰国後もいろいろな仕事を助けてくれました」

超弩級バイク「H2」の企画担当に

KMFで確たる実績を残し、営業本部に復帰したのは2009年1月のことだった。約2年在籍した後、自ら希望を出して技術本部の商品企画部へ異動する。

「自分が直接関わって、ニューモデルを世に出してみたかったんです」

理系学部で専門の勉強をしていないことが気にかかったりはしなかった。

「設計担当の技術本部の人が知らないことを、私が知っている場合もありますから。フランスのマーケットはこんなものを求めている、こう使っているというのを8年間毎日毎晩見てきたことは、会社の中にいたのではわからない領域ですし、営業やマーケティングの観点からの意見もそう。製品開発においてはお客様のニーズを調査、分析した上で、さまざまなスタッフが専門分野を持ち寄り、モデルの方向性を決めていくのですが、商品企画担当者は船頭のような役割を果たします」

その際の互いの共通言語になるのが、まさにバイク愛なのだろう。

"船頭"としての彼女の仕事で特筆すべきは、現在もカワサキのラインナップの筆頭を飾るフラッグシップモデル、Ninja H2の担当者を務めたことだ。スーパーチャージャー付きエンジン搭載の、世界を驚かせた超弩級バイクである。破格のエンジンを積んだバイクを最終的に製品として完成させる上での、取捨選択の舵取りを行ったのだ。

「またがった時にまず目に入る部分だから、フルカラーの液晶メーターにしてライダーの所有欲を満たすべきではないかとか、走行性能向上のためにホイールをマグネシウム製にするか否かとかを、予算など現実的な制約もにらみつつ協議して決めていく作業は、すっごくやりがいがありましたね」

スーパーチャージャー搭載のカワサキのフラッグシップモデル『Ninja H2』

桐野氏が商品開発を担当したスーパーチャージャー搭載のフラッグシップモデル『Ninja H2』。その他、競技用オフロードバイク『KX450』『KX250』も、桐野氏が担当したモデルだ  写真提供=カワサキモータース

女性だから社長になれたわけではない

2015年からマーケティング部に移り、各モデルのグローバルなPR方針の策定や、ワークスとしてのレース活動のプランニング、出場ライダーの決定・契約の管理などに従事。2018年には同部部長となった。

そして川崎重工から『カワサキモータース』が独立するにあたり、同社の伊藤浩社長より直々に、KMJの経営を託されたというわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア新型中距離弾、実戦下での試験継続 即時使用可

ワールド

司法長官指名辞退の米ゲーツ元議員、来年の議会復帰な

ワールド

ウクライナ、防空体制整備へ ロシア新型中距離弾で新

ワールド

米、禁輸リストの中国企業追加 ウイグル強制労働疑惑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中