コロナ禍のインフレという難題に「政治的な思惑」を持ち込んでいては解決は遠い
THE INFLATION CONUNDRUM
アメリカではある程度の物価上昇を容認すべき? ALEXI ROSENFELD/GETTY IMAGES
<インフレが現実的な脅威として世界的な注目を集めるが、その先行きについて専門家の見方は分かれている。この難題の解決に必要なものとは>
わずか数カ月前まで、ニュースでインフレが大きな話題になることはほとんどなかった。しかし、ここにきてインフレが世界経済の重要テーマとして急浮上し始めている。アルゼンチン、ブラジル、トルコ、インド、そしてアメリカなど、多くの国で物価の上昇が問題になっているのだ。
最も気掛かりなのは、アメリカの状況だ。10月の消費者物価指数の上昇率は、前年同月比で6.2%。これは過去30年間で最も高い数値だ。世界最大の経済大国でインフレが過熱すれば、世界経済に及ぶ影響は計り知れない。
厄介なのは、アメリカ経済の現状をどう見るべきかについて有力経済学者の見解が一致していないこと。2008年のノーベル経済学賞受賞者であるポール・クルーグマンの見方によれば、現在のインフレ圧力はサプライチェーンの混乱が原因であり、あくまでも短期的なものだという。
しかし、元IMFチーフエコノミストのオリビエ・ブランシャールは違う見方をしている。目下の物価上昇は、バイデン政権の大型経済対策「米国救済計画」の結果であり、影響は長引く可能性が高いというのだ。
状況は国ごとに大きく異なる
物価上昇の原因は確かに「米国救済計画」にあるが、この政策は誤りではないと、私は考えている。大型経済対策がもたらす恩恵、特に最も弱い立場にある人々を救えることの利点を考えれば、ある程度の物価上昇はやむを得ないと考えるべきだろう。
アメリカの中央銀行であるFRBは、インフレ抑制のために、現在示唆しているよりもかなり大幅な利上げを行う必要が出てくるだろう。それでも、アメリカの政策当局は、目下のインフレを乗り越えるための知恵を持っている。これまでの金融・財政政策もおおむね適切だ。
今回が過去の多くのグローバルなインフレと異なるのは、国ごとの違いが際立っていることだ。新型コロナ危機による景気後退からの急回復が物価上昇の原因である点は世界共通だが、この未曽有の危機への対応が国によって異なったために、経済の状況にも違いが生じている。
とりわけ難しい状況に直面しているのはインドだ。小売物価は上昇しているが、ほかの多くの国ほどではない。10月の小売物価の上昇率は前年同月比で4.5%を記録しているが、上昇ペースはこの数カ月ほとんど変わっていない。それに対し、卸売物価の上昇率は前年同月比で12.5%。9月は10.7%だった。こちらは歯止めが利かなくなりつつあり、1990年代後半以降で最も高い水準に達している。