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読む人の心を撃つ「うまい文章」を書くためのシンプルな三原則

2021年11月5日(金)11時23分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

文章とはなにか。

文章とはキャリアー(信号、波、触媒、運ぶもの、感染)です。言葉を発する主体の、感情、判断、思想を乗せて走るクロネコヤマトです。宛先は、もちろん読者です。感情、判断、思想がそこに梱包されていなければ、読者の受け取り印はもらえません。読者の受け取り印とは、心が揺れた、倒壊したという現象です。

地震!

【Step】■ミフネはたしかにうまいけど

朝日新聞に「アロハで田植えしてみました」という連載記事を書き始めたのは、二〇一四年のことだった。都会から田舎に流れてきたライターが、縁もゆかりもない土地で、早朝の一時間だけ田仕事をするという、そこだけとればなんということもない企画だった。しかし連載一回目から、驚くほど多くのファンレターや電話、メールが来た。テレビ番組になり、本になった。連載はシリーズ化され、二〇二〇年、シーズン7まで続いている。

その記念すべき第一回が紙面になったとき、九州地方の新聞社の編集幹部に、掲載紙を送ったことがある。別件の取材でお世話になった方で、ごあいさつという程度。とくに深い意味はなかった。

その編集幹部は、現役時代から名文記者として知られた人で、本を何冊も出版し、文化部長や編集局長を歴任した人物だった。返礼のはがきに、こうあった。

「記事は読んでいました。なにしろうまい文章です。うま過ぎると言ってもいい。しかし、なにごとにつけ、『過ぎる』というのは、よくないことかも知れませんよ」

この短いはがきには、しばらく考え込んでしまった。

黒澤明監督の傑作に「椿三十郎」という映画がある。主人公(三船敏郎)は、頭が切れてべらぼうに腕の立つ素浪人で、世の中に怖いものなどない男。敵の侍を容赦なく切り伏せる。その三十郎に、いかにも気品のあるおっとりした、城代家老の奥方が、諭す場面が忘れがたい。

「あなたはなんだかギラギラし過ぎていますね。そう、抜き身みたいに。あなたは、鞘のない刀みたいな人。よく切れます。でも、本当にいい刀は、鞘に入っているもんですよ」

■「うまい文章」は「いい文章」か

徒然草は「よき細工は、少し鈍き刀を使ふといふ」と書いている。

「歌よみは下手こそよけれあめつちのうごき出(いだ)してたまるものかは」とは、江戸時代の狂歌だ。歌よみは下手な方がいい。うまい歌など書かれて、天地が動いてしまっては危なくて仕方ない。古今集の序文に、「力をも入れずして天地(あめつち)を動かし」とあることに対する、強烈な皮肉だ。

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