最新記事

文章術

読む人の心を撃つ「うまい文章」を書くためのシンプルな三原則

2021年11月5日(金)11時23分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


「あ、すみません。時間に関しては前々回の訂正の部分がやっぱり正解で、日にちについてはその次の連絡が正しい日時です」

「あ、すみません、やっぱり間違っていて直近の訂正が正解ということがわかりました。ただし、皆様に送ったメールに時間差があり、前回分と前々回分というのが人によって異なる可能性があるのでご注意ください。一斉送信したのですが、あとから決まったメンバーの分は後から送りましたので、その人にとってそれは初回です」

――町田康『人生パンク道場』

大笑いです。ここまで分かりにくいと、芸術ですね。「わたしは宴会の幹事など、よく雑事を押しつけられる。どうしたらいいでしょう?」という読者の悩み相談に、言葉の魔術師・町田さんが大まじめに答えている文章です。使えない幹事を演じて撃退しろ。発想といい、文章といい、最高でしかありません。

つまり、わたしたちは、この分かりにくい文章アートの、逆をすればいいのです。

その原則は三つだけ。

① 文章は短くする。
② 形容語と被形容語はなるべく近づける。
③ 一つの文に、主語と述語はひとつずつ。

■短く、近く、シンプルに―すぐ「うまく」なる三原則

①について。

吾輩は猫である。名前はまだ無い。

ご存じ、夏目漱石のデビュー作の書き出しです。「吾輩は猫なんだが、名前はまだ無いのである」とか、「吾輩は、まだ名付けられていない猫である」とは、ぜったいにしませんね。

もちろん漱石は、短い文章だけを書いていたのではなく、重層的にうねりをもたせた、複雑で長い日本語も書きます。ですが、総じて、短い、平易な文章を得意にしました。漱石の生きた明治時代とは、庶民にも分かる日本語を、主に小説家が開発し、新聞を通じて広めていた時代です。わざわざ難しい言葉は使わない。短い文章でたたみかける。漱石は町っ子。素の町人だったんです。

文章は、粋な町っ子でいきたいですよね。初心者はもう、すべての文章を分けてみてください。二つに分けられる文は、全部、二つに分ける。

②について。

わたしの敬愛する先輩に、悪文狩りの名人がいるのですが、その悪文ハンターが、ある日のテレビニュースで、「違法な野生動物の売買」とアナウンサーが話すのを聞き、憤慨していました。「耳を疑い、テロップもあったので目を疑った。野生動物にも法律守れってか?」。単に「野生動物の違法な売買」とすればいいだけの話ですね。「違法」なのは「売買」であって、「野生動物」が「違法」なわけがない。こういう文章は、たいへん多く見かけます。なぜかというと、文章の書き手は、自分の言いたいことが分かっているからです。あたりまえですね。

しかし、読者は書き手の言いたいことなんて分かっていない。多くの場合、興味もない。相手は自分の言いたいことを分かっていない。興味もない。そこから始めるしかない。謙虚さが、文章のコーナーストーン(要石)です。うまい文章を書く人は、人に対して、世界に対して謙虚です。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国CPI、2月は0.7%下落 昨年1月以来のマイ

ワールド

米下院共和党がつなぎ予算案発表 11日採決へ

ビジネス

米FRBは金利政策に慎重であるべき=デイリーSF連

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 3
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMARS攻撃で訓練中の兵士を「一掃」する衝撃映像を公開
  • 4
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 5
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 6
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 7
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 8
    同盟国にも牙を剥くトランプ大統領が日本には甘い4つ…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中