成功する情報発信に共通する「ナラティブ」とは、戦略PR第一人者が解説
ナラティブづくりは経営者の仕事である
── ナラティブの成功を左右するものは何でしょうか。
もちろんSNSや動画制作などを通じてPR担当者がナラティブの実践者であることは大事です。ただ、もっと根本的な要因は、経営層がしっかりナラティブづくりに関わっているかどうか。ナラティブの起点は、企業やブランドの「存在意義」、つまりパーパスです。このパーパス策定は社長をはじめとする経営者の仕事です。
ナラティブは、消費者、従業員、取引先などと多様なステークホルダーを巻き込む力をもちます。冷凍餃子の例だと、たとえば普段は味の素冷凍食品が売り込む先であるスーパー側から、「一緒に『手間抜きコーナー』をつくりませんか?」と声がかかります。こうしてお客様が喜び、商品が売れて従業員も喜ぶことにくわえ、取引先にも感謝されるのです。経営者の立場に立つと、主語が自分や自社である「自分語りのストーリー」よりも、多様な人々が関与し、拠りどころにしたくなるようなナラティブを描く必要があるといえます。
── たしかにそれは魅力的な人材獲得においても重要ですね。
そうですね。個人も会社選びでは、会社のブランドや年収ではなく、「この会社で働くことで私はどうなるのか?」を気にするようになっています。「私が入りたい物語があるか」が就職や転職の基準になってきている。その意味で、採用広報でナラティブによる共体験を謳えているかは重要です。その意味で、ナラティブは従業員の結束を高めるだけでなく、優秀な人材を引きつけてくれます。
同様に、個人のキャリアに対してもナラティブの発想を応用できます。本書には、企業だけでなくメルケルなどの世界の政治家や「こんまり」こと近藤麻理恵さんの事例を紹介しました。有名人に限らず、「この人と一緒に物語を紡ぎたい」と思ってもらえるかどうか、と考えてみるとよいですね。「自分自身が何をしたいか」をデザインすることももちろん大事ですが、周囲の仲間やステークホルダーを主語にして、5年後やその先をイメージすることをおすすめします。
PRの原点に立ち返らせてくれたマーケティングの古典的名著
── 本田さんは小さい頃から読書好きだったそうですが、PRのプロとしての道を極めていくなかで影響を受けた本は何でしょうか。
一冊挙げるとしたら、世界的ベストセラーを連発するコラムニスト、マルコム・グラッドウェルの『ティッピング・ポイント』(文庫版は『急に売れ始めるにはワケがある』)です。マーケティングの古典的名著といえます。