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追悼

必要か疑わしいものでも大ヒットさせた「テレビ通販の父」ロン・ポピール

DEATH OF A SALESMAN

2021年9月2日(木)17時45分
デービッド・ワイス
ロン・ポピール(イラスト)

ILLUSTRATION BY BRITT SPENCER

<野菜スライサーやパスタメーカー、増毛スプレー......。さまざまなグッズの数々を巧みに売りまくった男の「遺産」とは>

7月に86歳で世を去ったロン・ポピールを悼んで半旗が掲揚されることはまずないだろう。所詮はセールスマンだ。商いの世界で消費者の注目を引き付けるための戦いを何十年も戦った闘士ではあるが、戦場で祖国のために戦ったわけではない。それでも、テレビという当時の新しいメディアにおける最強のセールスマンだったことは評価すべきだ。

ポピールはテレビを通して、安っぽい野菜スライサーやジューサーの類いを「人生を変える優れモノ」として売り込んだ(それも30分にもわたって!)。熱っぽく軽妙な口調で商品の効用を説く姿は、その昔、お祭りで怪しげな増毛剤や精力剤を売っていた露天商を思わせた。

こうした実演販売のやり方は、父サムの下で学んだ。便利グッズ開発の天才だったサムは、フードカッター・スライサーの「ベジオマティック」と「チョッポマティック」を発明して大量に売りさばいた人物だ。

父親の商売を手伝っていたポピールが独立して自分の会社ロンコ社を設立したのは、1964年のこと。それ以降は、父親と商売敵になった。それは、敬愛する父親へのある種の恩返しだったのかもしれないし、母親と離婚した後に自分たち兄弟を児童養護施設に押し込んだ父親への意趣返しだったのかもしれない。

真相はともかく、こうして父子は疎遠になり、激しく反目し合った。そして、その過程でポピールは莫大な富を築いた。死去した時点で資産は2億ドルに達していたという。

本当に必要か疑わしい便利グッズ

ポピールは、最初は1分間のテレビコマーシャルで、のちには30分のテレビ通販番組で、本当に必要か疑わしい便利グッズの数々を巧みに売り込んだ。やがてケーブルテレビが普及すると、私のように物好きの暇人はそれこそ四六時中、テレビでポピールの姿を見るようになった。

私がこの男に固執し過ぎているのではないかと感じた人もいるだろう。実は、私の病的なまでの「ポピール依存症」には理由がある。

私の父ルービンは舞台俳優出身で、実演販売人兼ナレーターとして仕事をしていた。そんな父にナレーションの仕事を依頼したのがサム・ポピールだった。父がナレーションを担当した「ベジオマティック」は、程なく大ヒット商品になった。これ以降、サムと父は長年にわたり親しい友人であり続けた。

「まだそんなやり方でタマネギを切っているの?」。まな板の前で目を真っ赤にした主婦に向けて、ナレーターの父はいかにも驚きを禁じ得ないという口調で語り掛けた。「ベジオマティックを使えば、あなたが流す涙はうれし涙だけになります!」

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