必要か疑わしいものでも大ヒットさせた「テレビ通販の父」ロン・ポピール
DEATH OF A SALESMAN
こうしたやぼったい売り込みは、彼らが意図しない形で笑いを生んだ。ロン・ポピールはテレビのお笑い番組でパロディーになり、高視聴率のトークショーに相次いで招かれた。
もしあなたがサラダ用の野菜をスライスするグッズにさほど関心がないとしても、ポピールの会社がテレビ通販番組で送り出す商品のどれかは心に刺さったのではないだろうか。家庭用カラオケセット、電動パスタメーカー、スモークレス灰皿、電気食品乾燥機......こうした品物にハートをわしづかみにされて、真夜中に思わずクレジットカードに手を伸ばした人もいたかもしれない。
ジャーナリストのマルコム・グラッドウェルは、ニューヨーカー誌の記事でロン・ポピールをたたえて「発明家」と呼んだ。だが、ポピールをヘンリー・フォードやトーマス・エジソンと肩を並べる発明家と見なす人はいないだろう。その点は、本人も自覚していたようだ。自分が家庭用カラオケセットの「ミスター・マイクロフォン」ではなくて、面ファスナーの発明者だったらよかったのに、とよく言っていたという。
確かに、レコードプレーヤーや自動車は、世界を変える力を持った発明と言える。それに比べて、この商品を例に持ち出すのはいささか酷かもしれないが、ポピールの増毛スプレー(薄毛が気になる箇所に黒いパウダーを吹き掛けて、毛量を多く見せる商品)は、お笑いのネタになるのがいいところだろう。
安っぽい演出と素人くさい映像の魅力
ポピールが販売してきた個々の商品の評価はさておき、通販番組で私の目をクギ付けにしたのは、予算をかけない素朴な番組作りだ。ポピールの番組では、雇われた聴衆がスタジオで大げさに拍手して、時には商品を口々に絶賛する安っぽい演出が定番だった。それに、映像を乱暴にぶった切るような素人くさい映像編集も見落とせない。
けれども、それ以上に私が目を奪われ、少々あきれずにいられなかったのは、ポピールが通販番組のためにつくり上げたキャラクターだった。番組内でポピールは、残酷なまでにぶっきらぼうな振る舞いを繰り返した。その被害に遭っていたのが、ナンシー・ネルソンのようなアシスタント役の女性たちだった。
電動パスタメーカーの実演をしたときは、ネルソンが進行を助けようとして差し挟む言葉(中身のない発言ではあったけれど)をひっきりなしに遮り、しまいには、無駄話はやめにして、さっさとパスタメーカーに小麦粉を入れろと命令した。