失業率と平均時給が「同時に上昇」──コロナ不況の米労働市場で何が起きていたのか
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<通常、景気の悪いときには失業率が上昇し、平均時給は低下する──しかし、2020年4月に米国労働省が公表した雇用統計では、いずれも上昇するというイレギュラーが起こった。この現象を、統計学のトリックを使って読み解く>
「感染者数は指数関数的に増加している」「実効再生産数が1を上回った」──新型コロナウイルス感染症をめぐる日々の報道により、これまでの日常生活で聞かれなかった専門用語や情報を耳にする機会が増えた。
指数関数(y=aのx乗)のように1つの変数(x)に対してもう1つの変数(y)が飛躍的に変化していくことを「指数関数的」と表現するが、コロナ感染者数の増加は理論的には指数関数で表すことができるためこのように表現される。また、1人の感染者が平均して何人に感染を広げるかを示す数値のことを「実効再生産数」といい、感染者数増加の勢いを決める重要な数値である。そうした言葉の背後には感染拡大の勢いを予測するための数式があり、それをもとにして専門家たちが対策を講じている。
感染症対策の例に限らず、現代社会のあらゆる事象を数学思考で考えることができる。
テクノロジーの発達は膨大なデータの収集とその分析を可能にしたが、データや分析結果をどう解釈しビジネスへ活用するかの判断は今なお人に委ねられている部分だ。今後AI技術が発展してもビジネスの世界での数学理解の必要性は変わらないどころか、ますます重要になると言っても過言ではない。
『数学独習法』(講談社現代新書)を上梓した冨島佑允氏は、大多数のビジネスマンに必要なのは全体感の理解であって、複雑な方程式を解く力や計算能力ではないと述べる。
金融の世界で数学を駆使してビッグデータを扱う著者に、数学嫌いで避けてきた文系編集者が何度もわかるまで聞いてつくったのが、大人のための数学入門書である本書だ。この本で紹介される4つの分野(代数学、幾何学、微積分学、統計学)から、物事の傾向を大きな視点でとらえるために必要な統計学について一部抜粋し、掲載する。
(編集部注:記事化にあたって、一部本文に変更を加えています)
統計学で世の中を掘り下げる
平均年収、平均労働時間、平均寿命など、いろいろなものの平均値が新聞などで取り上げられ、社会の動向を表す目安の数字として扱われています。平均値は簡単なようでいて意外と奥が深いため、平均値についての思考を掘り下げれば、世の中の出来事をより深く理解することにつながります。
例として、新型コロナウイルスの感染拡大によって起きた不思議な現象について紹介したいと思います。
図5-8にあるように、米国労働省が毎月公表している雇用統計では、米国での感染拡大を受けて2020年4月に失業率が急上昇しました。一方、労働者の平均時給の前月比増減率を見てみると、こちらも4月に急上昇しています。通常、景気の悪いときは失業率が上昇する一方で平均時給は低下し、景気の良いときは逆のことが起きるのですが、このケースはそのどちらにも当てはまらず、失業率と平均時給が共に上昇しています。何が起きていたと思いますか?