最新記事

コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学

導入進む「ダイナミックプライシング」 コロナ不況下の家計にはどう影響する?

DYNAMIC PRICING

2020年5月29日(金)18時47分
加谷珪一(経済評論家)

張り替えの手間という物理的限界がある紙の値札をIT化が変える FANG XIA NUO/ISTOCK

<意外に広がる「ダイナミック・プライシング」は、正しい情報を早く入手した者が勝つ非情な仕組み。本誌「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集より>

近年、販売価格をリアルタイムで変動させる「ダイナミック・プライシング」を導入する企業が増えている。目的は収益の最大化だが、利用者にとっても、価格変動を逆手にとって安く商品を購入できるようにも思える。コロナ危機によって経済が混乱するなか、「定価」がなくなることは消費者にとってどのような意味があるのだろうか。

20200602issue_cover200.jpg日本では商品は定価で買うものという認識が強いが、定価の概念は意外と曖昧である。メーカーは値崩れを防ぐため、小売店に定価販売を強く求めてきたが、それが通用したのは、世の中が貧しく、モノを生産するメーカーの力が強かった昭和の時代までである。1970年代には流通革命を標榜する大型スーパーが、80年代には家電量販店が急成長した。こうした大規模小売店が圧倒的な調達力を背景に大幅な安値販売を行ったことから、定価販売の概念は事実上、消滅した。高い店舗コストを捻出するためコンビニだけは例外的に定価販売を続けてきたが、ここ数年で、その慣行も薄れている。

いつどの店で買っても値段が同じという意味での定価の概念はとっくの昔に崩壊しているわけだが、ダイナミック・プライシングが目新しく感じられるのは、価格変動の頻度がこれまでになく高いからである。

アマゾンは、この仕組みを最も積極的に活用している企業の1つだが、まさにあっと言う間に値段が変わる。ある商品を購入し、もう1つ追加で買おうとすると、値段が変わっていることは珍しいことではない。これは購買履歴や他社の販売価格を常に分析することで、収益を最大化させているからである。

ネット通販で大きな成果を上げたことから、リアル店舗でもこの仕組みを導入するケースが増えており、ビックカメラは昨年から電子ペーパーを使って商品棚の値札の表示価格を随時、変えるシステムを採用している。これまでも量販店は他店の動向を見ながら、常に値札を替えてきたが、値札の張り替えには手間がかかるため物理的な限界があった。価格変動そのものは以前からの慣習だが、電子化によりほぼリアルタイムの変動が可能になったという点が大きな違いといえる。

欧米の航空業界やホテル業界ではかなり前から、ITを駆使してリアルタイムで座席や部屋の値段を変えるイールド・マネジメントという手法を活用してきた。あらゆる業界でビジネスのIT化が進んでいる現実を考えると、こうした仕組みはさらに拡大していくだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中