パンデミック不況が日本経済にもたらした「貸し手不足」問題
GONE WITH CORONA
また今回の不況を過去との対比で見ると、1990年のバブル崩壊から直近までにおける日本経済の最大の問題は、貯蓄をする人は多数いるのに、それを借りて使う人がゼロ金利でも不足していたことであった。しかし一国の経済は、誰かが貯金や借金の返済をしていれば、別の誰かがそれを借りて使わないと回らない。
この借り手不足の1つ目の原因は、借金でファイナンスされたバブルの崩壊によって多くの借り手のバランスシートが毀損し、債務だけが残った彼らがゼロ金利でも一斉に借金の返済を優先したことだった。
このバランスシート不況に対し、日本政府は自らカネを借りて使うことでバブル期のピークを上回る水準のGDPを維持させてきた。この政策により所得を維持した企業や家計が借金の返済を進めた結果、民間のバランスシート問題はおおむね解消された。ただ20年近くかかったこの苦しい借金返済の経験から、企業には借金に対する拒絶感が残った。
借り手不足の2つ目の原因は、今や多くの日本企業にとって、国内で投資をするよりも、新興国で投資をするほうが、資本のリターンがずっと高くなっているという事実である。実際に、フィリピンやバングラデシュの賃金は日本の10分の1であり、そのようななか日本国内で投資を増やすことは、多くの企業にとって正当化しにくくなっているのである。
このような状況下で国内投資を増やすには、国内における資本のリターンを上げる減税や規制緩和が必要だが、それらはなかなか進まず、日本経済には閉塞感が漂っていた。
借り手に加えて貸し手も不足
今回のパンデミックは、この借り手不足の問題に、貸し手不足という問題を新たに加えることになった。貸し手不足は、売り上げが激減した多くの企業が貯蓄を取り崩して必要な支払いに充てていることと、今のうちに手元資金を増やしておこうという「後ろ向きの借り入れ」が増えたことから発生している。
その結果、これまで貯蓄や借金返済でジャブジャブだった金融市場は一気に引き締められており、実際に日本を含む一部の国では、中央銀行が必死で金利を低く抑えているにもかかわらず、企業の借り入れ金利が急騰してしまっている。
借り手不足に困っていたのだから、貸し手がいなくなったことで問題は相殺される、ということにはならない。これまで日本政府や金融業界が求めていたのは、新規事業に必要な資金などを求める「前向きな」借り手だ。ところが前述のとおり、いま増えているのは当座をしのぐための「後ろ向きの借り手」であり、そうした資金需要に対しては金融業界も及び腰になる。