最新記事

インド

インド経済大失速 失望招いたモディ政権の景気対策

2020年2月11日(火)10時00分

アジア第3位の規模を誇るインド経済が、ここ10年以上で最悪の減速に見舞われている。モディ政権がまとめた新たな連邦予算では、その停滞から脱するのは難しそうだ。写真はニューデリーの議会内で会見するモディ首相。2019年11月撮影(2020年 ロイター撮影/Altaf Hussain)

アジア第3位の規模を誇るインド経済は、ここ10年以上で最悪の減速に見舞われている。モディ政権がまとめた新たな連邦予算では、その停滞から脱するのは難しそうだ。

エコノミストらは、政府が約束する財政出動は控えめで、個人所得税の減税も小幅にとどまっていると指摘する。2020─21年の財政赤字目標を達成できないリスクもある。強気の歳入目標を達成するには、国営企業・金融機関の株式売却により約300億ドルを調達できるかどうかがカギになっているからだ。

1日に発表された4月からの新年度予算案において、政府は、インフラ・農業分野を中心とした150億ドル近くの歳出拡大を可能にするべく財政赤字目標を緩和する一方で、民営化を推進している。

エコノミストや産業界首脳らは、この予算案は長期的にはある程度の成長の足場になろうが、即効性のある景気対策としては不十分だとしている。

3月までの今年度、インド経済の成長率は過去11年間で最低の5%と予想されており、モディ首相に対するプレッシャーは高まっている。モディ首相はすでに、世論を二分する市民権法をめぐって批判を浴びている。

歳入の伸び悩みが政策の足かせに

野村グループのインド担当エコノミスト、ソナル・バルマ氏は「今回の予算案は、成長、インフレという点で中立的なものだと見ている」と述べ、金融セクターが抱える問題により、景気回復があるとしてもさらに遅れる可能性があるとの見方を示した。

インド政府は消費需要と投資の加速を狙って歳出拡大を提案しているが、エコノミストらによれば、歳入の伸び悩みによって手を縛られている状態にあり、それほど踏み込めないだろうという。

格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、今回の予算案は実質・名目成長の鈍化による財政の困難を浮き彫りにするものであり、この状態は政府の予想よりも長く続く可能性があると述べている。

野村によれば、インドの国内総生産(GDP)は2019年第3四半期には年率4.5%となったのに続き、10─12月には4.3%まで低下した可能性が高いという。これは、過去6年以上見られなかった低水準だ。

エコノミストらによれば、インドは2020─21年の財政赤字を対GDP比3.5%に抑えるという目標を達成できないリスクを抱えている。政府は歳入の成長目標を10%近くに設定しているが、これは民営化によって約2兆1000億ルピー(300億ドル)を調達することが前提となっているからだ。

また、今回の予算案では不振にあえぐ金融セクター、住宅市場について新たなインセンティブが何ら提供されない一方で、個人所得税の改革案によって正味のプラスが生じるかどうかが不透明であることから、投資家・消費者のあいだでも失望感が見られる。

税務コンサルティング会社のアショク・マヘシュワリー&アソシエイツLLPのパートナー、アミット・マヘシュワリー氏は、「減税は納税者に対してそれほど大きな恩恵をもたらさないだろう」と述べ、貯蓄意欲を低下させ、市場金利を押し上げる可能性があると指摘する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇、「良く眠った」とバチカン 前日は人工呼

ワールド

中国、米イルミナの遺伝子解析機器を禁輸に 関税上乗

ビジネス

アラムコ、25年の配当急減予想 24年は減益

ワールド

ウクライナ議員、米の軍事支援停止を批判 「降伏強要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Diaries』論争に欠けている「本当の問題」
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 7
    バンス副大統領の『ヒルビリー・エレジー』が禁書に…
  • 8
    米ウクライナ首脳会談「決裂」...米国内の反応 「ト…
  • 9
    世界最低の韓国の出生率が、過去9年間で初めて「上昇…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 5
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 8
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 9
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中