マーケティングが環境問題の解決に向かうまで
これに対して、1960年にハーバード大学ビジネススクール教授のセオドア・レーヴィットが「ハーバード・ビジネス・レビュー」に、「近視眼的マーケティング」(Marketing Myopia)という論文を執筆。「製品発想だけで顧客視点が欠落していると、企業は破滅に追い込まれる」と指摘し、それまでの、企業側の製品管理型のマーケティングを厳しく批判した。
つまり、「マーケティングは、顧客ニーズを発見し、創造し、触発し、満足させるといった一連の努力と事業活動のすべての立場にある」と提起したのである。
そして、マーケティングは企業の一方的な製品・サービスの販売促進のためのツールではなく、「企業-顧客」関係の円滑なコミュニケーション・ツールとして機能するものだと述べ、顧客の価値の発見・創造に注力する顧客主導型のマーケティングへと位置づけ直したのが、現代マーケティングのトップランナーとされる米国・ノースウェスタン大学経営大学院ケロッグスクールの名誉教授、フィリップ・コトラー博士だった。
今日では、「A Better World through Marketing」の理念のもとに、顧客というよりも一般の人々の生活を良くし、生活環境を改善・発展させることにマーケティングの今日的役割があるとしている(任2016)。
パラダイム・シフト:マネジリアル・マーケティングから、ソーシャル・マーケティングへ
現代マーケティング、いわゆるマネジリアル・マーケティングの理論的・実践的な大家であるコトラー博士は、マーケティング概念・方法論・戦略論について進化させ、マーケティングを企業の最重要な経営戦略のツールとして定着させるというパラダイム・シフトを行った。
コトラーはマーケティングの進化の過程を
(1)「マーケティング1.0」(1900年~1960年代の製品マネジメント=製品志向性の時代)
(2)「マーケティング2.0」(1970年~1980年代の顧客マネジメント=消費者志向性の時代)
(3)「マーケティング3.0」(1990年~2000年代のブランドマネジメント=価値志向性の時代)
(4)「マーケティング4.0」(2010年~現在の自己実現志向性、精神的価値志向性の時代)
と区分し、企業主導型のモノのマーケティング=物質主義的価値観から、消費者主導の人の価値を重視するマーケティング=脱物質主義的価値観(精神的価値観)へと、マーケティングを変革させてきた。
このことが、彼が「現代マーケティングの神様(Guru)、ないし、父」といわれる所以である(Kotler 2016)。
他方、コトラーは企業を取り巻くステイクホルダー(利害関係者)の社会的利益に配慮したマーケティング活動や、さらには、途上国への支援・貧困・ヘルスケア・CSR等の社会的課題解決のためのマーケティングに関心を持ち、「社会性を基盤としたマーケティング」のあり方を追究してきた。
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