最新記事
経営

マーケティングが環境問題の解決に向かうまで

2019年11月28日(木)16時25分
松野 弘(経営学者、現代社会総合研究所所長)

これに対して、1960年にハーバード大学ビジネススクール教授のセオドア・レーヴィットが「ハーバード・ビジネス・レビュー」に、「近視眼的マーケティング」(Marketing Myopia)という論文を執筆。「製品発想だけで顧客視点が欠落していると、企業は破滅に追い込まれる」と指摘し、それまでの、企業側の製品管理型のマーケティングを厳しく批判した。

つまり、「マーケティングは、顧客ニーズを発見し、創造し、触発し、満足させるといった一連の努力と事業活動のすべての立場にある」と提起したのである。

そして、マーケティングは企業の一方的な製品・サービスの販売促進のためのツールではなく、「企業-顧客」関係の円滑なコミュニケーション・ツールとして機能するものだと述べ、顧客の価値の発見・創造に注力する顧客主導型のマーケティングへと位置づけ直したのが、現代マーケティングのトップランナーとされる米国・ノースウェスタン大学経営大学院ケロッグスクールの名誉教授、フィリップ・コトラー博士だった。

今日では、「A Better World through Marketing」の理念のもとに、顧客というよりも一般の人々の生活を良くし、生活環境を改善・発展させることにマーケティングの今日的役割があるとしている(任2016)。

パラダイム・シフト:マネジリアル・マーケティングから、ソーシャル・マーケティングへ


現代マーケティング、いわゆるマネジリアル・マーケティングの理論的・実践的な大家であるコトラー博士は、マーケティング概念・方法論・戦略論について進化させ、マーケティングを企業の最重要な経営戦略のツールとして定着させるというパラダイム・シフトを行った。

コトラーはマーケティングの進化の過程を

(1)「マーケティング1.0」(1900年~1960年代の製品マネジメント=製品志向性の時代)
(2)「マーケティング2.0」(1970年~1980年代の顧客マネジメント=消費者志向性の時代)
(3)「マーケティング3.0」(1990年~2000年代のブランドマネジメント=価値志向性の時代)
(4)「マーケティング4.0」(2010年~現在の自己実現志向性、精神的価値志向性の時代)

と区分し、企業主導型のモノのマーケティング=物質主義的価値観から、消費者主導の人の価値を重視するマーケティング=脱物質主義的価値観(精神的価値観)へと、マーケティングを変革させてきた。

このことが、彼が「現代マーケティングの神様(Guru)、ないし、父」といわれる所以である(Kotler 2016)。

matsuno191128kotler-1-chart.png

(出典:高木浩一 2019)

他方、コトラーは企業を取り巻くステイクホルダー(利害関係者)の社会的利益に配慮したマーケティング活動や、さらには、途上国への支援・貧困・ヘルスケア・CSR等の社会的課題解決のためのマーケティングに関心を持ち、「社会性を基盤としたマーケティング」のあり方を追究してきた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは153円半ば、日銀の追加利上げ思惑

ビジネス

ホンダが11%超高、日産が経営統合撤回との報道で

ビジネス

テスラ、欧州5カ国で1月の販売が低調 マスク氏の政

ワールド

米、SHEIN・Temuを「強制労働」リストに追加
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 5
    中国AI企業ディープシーク、米オープンAIのデータ『…
  • 6
    脳のパフォーマンスが「最高状態」になる室温とは?…
  • 7
    DeepSeekが「本当に大事件」である3つの理由...中国…
  • 8
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 9
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 10
    メキシコ大統領の外交手腕に脚光...「トランプ関税」…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 9
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 10
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中