最新記事

金融

中国発日本経由で世界に流れる「汚れた金塊」 違法品を精巧な偽造印で洗浄

2019年8月29日(木)15時39分

生産した地金のデータベース構築へ

市場関係者の話では、JPモルガンは金庫での偽造品発見を受けて、保有する金を全面的に点検した。1人の関係者は、その結果として約50本の偽造された金地金が見つかったと指摘。別の関係者によると、数百本が発見されたという。これについてJPモルガンはコメントしなかった。

発見された偽造品の本数は2017年以降、減少している。だが精錬業者の話では、偽造はますます高度になっているため、問題は拡大している可能性がある。

バルカンビのメサリク氏の話では、2017年には数百本の金地金に同じ識別番号が刻印されていることが判明。刻印にはつづりの誤りやロゴの欠陥のほか、過度に深いか浅い刻印も見られた、と別の精錬業者は話した。

メサリク氏は、現在では偽造には高度な機械が使われているとみられ、偽造品の精度は上がっていると語った。それでも機械がつかんだ痕跡や不完全な鋳型の痕跡といった明確な証拠が存在する場合もあるが、見逃しやすいという。

偽造品かどうかを確認する最も信頼できる手法は、純度の試験だ。金地金の標準純度は99.99%だが、スイスの精錬業者が3本の偽造品を調べたところ、2本は99.98%、残る1本は99.90%だった。

スイスの税関は、ティチーノ州の検察に報告された655本の偽造品について、一部は純度は99.99%をわずかに下回る水準だったと説明した。

スイスの精錬会社幹部は「偽造のレベルは大きく向上している。われわれでさえ、見抜くのが難しい」と指摘。「だが純度が少し低い。偽造業者はわれわれが使っている機器を持っていないからだ」と語った。

この問題に精錬業者は技術で対応している。

精錬大手メタロアは今年、金地金に偽造を見抜けるインクで刻印を始めた。これは偽造を防止する紙幣の印刷と同様、特定の光線やフィルターを介して見た場合、異なる形に表示される。

RAMPとバルカンビは、金地金の表面をきめ細かくスキャンして記録した上、それぞれの地金をスキャンして記録と一致しているかどうかを確認する機械やアプリを供給する。

アルゴルは、同社の金地金には偽造防止の多様な仕掛けが施してあるとしながらも、セキュリティー上の理由で詳しくは説明しなかった。

精錬業者を認定するロンドン貴金属市場協会(LBMA)は現在、偽造防止の基準を策定している。同協会はまた、セキュリティーを強化する手段として、生産されたそれぞれの金地金に関する情報を包含した世界的なデータベースの構築を提案している。

だが、精錬業者の偽造防止策は最近導入されたばかりであり、データベースが整備されるのは早くても2020年だ。

[ロンドン ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中