最新記事

雇用

政府と経済界「ジョブ型雇用」の議論活発化 IT化遅れで国際競争力低下の危機感

2019年4月15日(月)15時00分

進む中間層の低所得化

3月末の諮問会議で世耕弘成経済産業相は、国勢調査や商業構造基本調査などを基礎データとして経産省が作成した資料について説明した。

それによると、男性の場合、過去25年間に高所得層(700-1000万円)の割合と、300万円以下の低所得層が増加する一方、中間所得層(300─700万円)の割合は低下した。

政府内には「生産性上昇と賃上げを実現して、アベノミクスが成功と言われるようにもっていく必要がある」(経済官庁幹部)として、スキル底上げと「ジョブ型雇用」は必要との考え方が浮上している。

職業訓練を先行

だが、先行する欧米の例をみると、職務限定のスキル型採用では、企業の事業再編でその職務が消滅した場合、あるいは仕事に必要な能力が不足と判断されれた場合に解雇となる。

日本総合研究所・理事の山田久氏は、産業界にとって事業に合わせて解雇しやすいジョブ型雇用は、都合が良い制度と説明する。同時に労働者の不安を高めかねないと指摘。国や産業界が主導するだけでなく、雇用者側も含めてボトムアップ型の議論にしなければ、多くの問題が生じかねないと危惧する。

政府も現段階では、能力・スキル型雇用の導入を前面に打ち出せば、労働組合などの反発を招きかねないと予想。成果主義を前提とした政策の立法化を明確に打ち出していない。

一方、4月10日の諮問会議では「就職氷河期世代」を対象に3年をかけて職業訓練し就職を支援するプログラムを夏までに策定することが決まった。安倍晋三首相は、地域ごとに対象者を把握し、具体的な数値目標を立て、集中的に取り組むよう関係閣僚に指示した。

同世代は1993年─2004年に高校・大学を卒業、バブル崩壊後の不況期と重なり、非正規雇用の割合が多く、専門的スキルの習得が薄いと言われている。

民間議員の中には、氷河期世代への職業訓練の仕組みを活用して、一般の労働者への再教育と雇用流動化を促し、「ジョブ型雇用」への転換を図っていくことが念頭にあるという。

雇用法制に関する政府の検討会に出席している佐藤博樹・中央大学大学院教授は「ジョブ型雇用への転換は企業側にとって、転勤や配置換えなど従来のように企業が保持していたい人事権の一部を手放すことになる。同時に働く側にとっては、自ら勤務地や職務を選びキャリアを作る必要と自覚が求められる」と指摘している。

(中川泉 編集:田巻一彦)

[東京 15日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中