政府と経済界「ジョブ型雇用」の議論活発化 IT化遅れで国際競争力低下の危機感
進む中間層の低所得化
3月末の諮問会議で世耕弘成経済産業相は、国勢調査や商業構造基本調査などを基礎データとして経産省が作成した資料について説明した。
それによると、男性の場合、過去25年間に高所得層(700-1000万円)の割合と、300万円以下の低所得層が増加する一方、中間所得層(300─700万円)の割合は低下した。
政府内には「生産性上昇と賃上げを実現して、アベノミクスが成功と言われるようにもっていく必要がある」(経済官庁幹部)として、スキル底上げと「ジョブ型雇用」は必要との考え方が浮上している。
職業訓練を先行
だが、先行する欧米の例をみると、職務限定のスキル型採用では、企業の事業再編でその職務が消滅した場合、あるいは仕事に必要な能力が不足と判断されれた場合に解雇となる。
日本総合研究所・理事の山田久氏は、産業界にとって事業に合わせて解雇しやすいジョブ型雇用は、都合が良い制度と説明する。同時に労働者の不安を高めかねないと指摘。国や産業界が主導するだけでなく、雇用者側も含めてボトムアップ型の議論にしなければ、多くの問題が生じかねないと危惧する。
政府も現段階では、能力・スキル型雇用の導入を前面に打ち出せば、労働組合などの反発を招きかねないと予想。成果主義を前提とした政策の立法化を明確に打ち出していない。
一方、4月10日の諮問会議では「就職氷河期世代」を対象に3年をかけて職業訓練し就職を支援するプログラムを夏までに策定することが決まった。安倍晋三首相は、地域ごとに対象者を把握し、具体的な数値目標を立て、集中的に取り組むよう関係閣僚に指示した。
同世代は1993年─2004年に高校・大学を卒業、バブル崩壊後の不況期と重なり、非正規雇用の割合が多く、専門的スキルの習得が薄いと言われている。
民間議員の中には、氷河期世代への職業訓練の仕組みを活用して、一般の労働者への再教育と雇用流動化を促し、「ジョブ型雇用」への転換を図っていくことが念頭にあるという。
雇用法制に関する政府の検討会に出席している佐藤博樹・中央大学大学院教授は「ジョブ型雇用への転換は企業側にとって、転勤や配置換えなど従来のように企業が保持していたい人事権の一部を手放すことになる。同時に働く側にとっては、自ら勤務地や職務を選びキャリアを作る必要と自覚が求められる」と指摘している。
(中川泉 編集:田巻一彦)
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