最新記事

経営

あのP&Gですら、生き延びるためにグーグルの力を借りた

2019年2月19日(火)12時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

名門企業も昔はベンチャーだった

実は、新興企業と既存企業のDNAには共通点が多いという。なぜなら、P&Gをはじめとする歴史ある名門企業も、かつてはグーグルのようなベンチャー企業だったからだ。

だが、会社が成長し拡大していくにつれて、創業当時の興奮や目的意識、あるいは熱意は失われていく。市場シェアや現在の地位を守ることに血道を上げるようになり、強烈や個性やスピード感は過去のものとなり、やがて「化石」のようになってしまう。

「長い歴史をもつ企業は、世界が変わったことを認めなくてはならない」と著者は言う。いま多くの既存企業が苦境に立たされているのは、消費者がそのブランドに魅力を感じなくなったからだ。新鮮な空気を取り入れることで、スピードと小回りのきく行動を取り戻す必要がある。

また、新興企業の旺盛なエネルギーは、既存企業を若返らせる力となる。新たな創造に向けて邁進する新興企業はやる気に満ちた人材を次々と採用しているが、かたや輝きを失った既存企業は、そうした若く優秀な人材の選択肢からは外されてしまっているからだ。

もちろん新興企業にとっても、既存企業と手を取ることはメリットが大きい。著者に言わせれば、ほとんどの新興企業には「いわば大人による監督」が必要だ。

歴史の浅い企業の多くが破綻するのは、適切な組織運営に不可欠な規律や仕組みが欠けているために、会社の文化や使命感を守りながら拡大していけないことが大きな要因。時代の荒波を生き抜いてきた既存企業から得られる学びは、若い起業家にとって大きな財産になる。

ビジネス界に「パニック状態」が広がる時代に

グローバル競争が激化し、テクノロジーが急速に進化する今、ビジネス界には「パニック状態」と言っていいほどの不安が広がっている、と著者は言う。この複雑性とダイナミズムを強める世界で生き延びるカギが、既存企業と新興企業のパートナーシップだ。


自社の力だけで難局を乗り切ろうとして悪い行動パターンを繰り返す企業は、自社の未来をギャンブルの対象にしているに等しい。新興企業がその賭けに失敗すれば、あっと言う間に死を迎える。資源をふんだんにもっている既存企業も、古いやり方を続ければ、痛みをともなう緩慢な死を迎えかねない。(17ページ)

未来指向の企業はすでに実践を始めている。IBMやトヨタ、GE(ゼネラル・エレクトリック)、大手銀行ウェルズ・ファーゴ、ジーンズを生んだリーバイ・ストラウス、通信機器大手のモトローラ・ソリューションズ、小売り大手のターゲットなどの取り組みの実例を、本書で知ることができる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中