あのP&Gですら、生き延びるためにグーグルの力を借りた
名門企業も昔はベンチャーだった
実は、新興企業と既存企業のDNAには共通点が多いという。なぜなら、P&Gをはじめとする歴史ある名門企業も、かつてはグーグルのようなベンチャー企業だったからだ。
だが、会社が成長し拡大していくにつれて、創業当時の興奮や目的意識、あるいは熱意は失われていく。市場シェアや現在の地位を守ることに血道を上げるようになり、強烈や個性やスピード感は過去のものとなり、やがて「化石」のようになってしまう。
「長い歴史をもつ企業は、世界が変わったことを認めなくてはならない」と著者は言う。いま多くの既存企業が苦境に立たされているのは、消費者がそのブランドに魅力を感じなくなったからだ。新鮮な空気を取り入れることで、スピードと小回りのきく行動を取り戻す必要がある。
また、新興企業の旺盛なエネルギーは、既存企業を若返らせる力となる。新たな創造に向けて邁進する新興企業はやる気に満ちた人材を次々と採用しているが、かたや輝きを失った既存企業は、そうした若く優秀な人材の選択肢からは外されてしまっているからだ。
もちろん新興企業にとっても、既存企業と手を取ることはメリットが大きい。著者に言わせれば、ほとんどの新興企業には「いわば大人による監督」が必要だ。
歴史の浅い企業の多くが破綻するのは、適切な組織運営に不可欠な規律や仕組みが欠けているために、会社の文化や使命感を守りながら拡大していけないことが大きな要因。時代の荒波を生き抜いてきた既存企業から得られる学びは、若い起業家にとって大きな財産になる。
ビジネス界に「パニック状態」が広がる時代に
グローバル競争が激化し、テクノロジーが急速に進化する今、ビジネス界には「パニック状態」と言っていいほどの不安が広がっている、と著者は言う。この複雑性とダイナミズムを強める世界で生き延びるカギが、既存企業と新興企業のパートナーシップだ。
自社の力だけで難局を乗り切ろうとして悪い行動パターンを繰り返す企業は、自社の未来をギャンブルの対象にしているに等しい。新興企業がその賭けに失敗すれば、あっと言う間に死を迎える。資源をふんだんにもっている既存企業も、古いやり方を続ければ、痛みをともなう緩慢な死を迎えかねない。(17ページ)
未来指向の企業はすでに実践を始めている。IBMやトヨタ、GE(ゼネラル・エレクトリック)、大手銀行ウェルズ・ファーゴ、ジーンズを生んだリーバイ・ストラウス、通信機器大手のモトローラ・ソリューションズ、小売り大手のターゲットなどの取り組みの実例を、本書で知ることができる。