2019年世界経済「EU発の危機」の不気味な現実味
EUROPE IN CRISIS?
最低賃金の引き上げや燃料税引き上げの延期といった譲歩は、短期的にはフランス経済を活性化させるかもしれない。とはいえ群衆の圧力に屈しては、市場はマクロンの手腕に信頼を持てない。こんな人物に、豊かな北部と貧しい南部、リベラルな民主主義が主流の西部と独裁度や反EU傾向が強まる東部に分裂する今のヨーロッパを率いることなどできるのだろうか──。
有権者の間にどれほど反EU感情が存在するかは、5月に行われる欧州議会選挙で明らかになるはずだ。現時点ではポピュリスト勢力が過半数議席に迫る見込みは薄いものの、ドナルド・トランプの米大統領選勝利やブレグジットを決めた英国民投票、欧州各国議会での極右勢力の台頭が示すように、今は政治的変動の時代。加えて、欧州議会から中道志向のイギリス人議員が去れば、影響力はありながらも権力はあまりないEU機関は不安定と不確実性の波にのみ込まれかねない。それこそ、市場が恐れる事態だ。
EU内部の問題と併せて、世界全体でグローバル化への幻滅が大きな流れになっている。マーガレット・サッチャー元英首相やビル・クリントン元米大統領ら、前世代の指導者が主導したグローバリゼーションは関税を撤廃して自由貿易を促進し、巨大で閉鎖的な中国やインドの市場をこじ開けた。
グローバル化の衝撃は、欧米の半熟練・非熟練労働者にとって特に厳しかった。彼らの存在はアジアの安価な労働力によって不要になり、そのせいで外国人嫌悪や反移民感情が膨らんだ。EUの繁栄をもたらした経済論理の核である労働者の移動の自由は今、かつてない攻撃にさらされている。
ロシアとの戦争が勃発したら
デジタル革命の力で、携帯電話を手にした途上国の市民は先進国との間の富の格差をその目で見ることになった。よりよい生活を求めてアフリカやイラン、アラブ諸国から欧州やアメリカを目指す経済移民が急増し、それがまた欧米の労働者の怒りをあおる。憤る彼らが共鳴するのがトランプ、ブレグジット派、イタリアの五つ星運動などのナショナリズム的な主張だ。
ヨーロッパの覇権を揺るがす難問の山は、つい最近まで続いたEUの繁栄は継続するという確信に疑問符を突き付ける。おまけに、それでもまだ足りないとばかりに、トランプ米政権は自由貿易協定から離脱したり中国との貿易戦争を始めたりしている。欧州の指導者や投資家にとっては、今後も製品・サービスの輸出ができるのかと不安になるしかない状況だ。
最後の懸念材料は、第二次大戦終結以降で初めてヨーロッパで戦争が勃発する可能性が出てきたことだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2014年にウクライナ東部に侵攻し、クリミア半島を併合。2018年11月にはウクライナの艦船と乗組員を拿捕したが、いずれの行動もEUやアメリカからはいわば見逃されている。