最新記事

世界経済2019:2つの危機

2019年世界経済「EU発の危機」の不気味な現実味

EUROPE IN CRISIS?

2019年1月10日(木)16時30分
ニコラス・ワプショット(ジャーナリスト)

かつて戦争は不景気の特効薬とされた。第二次大戦によって世界は大恐慌から抜け出し、ベトナム戦争による支出増で米経済は上向いた、と。しかし、これは神話にすぎない。

確かに、10年に及ぶ世界恐慌の後に起きた戦争で兵士や兵器工場労働者の需要が膨らみ、アメリカは完全雇用を回復した。だが世界全体で見れば、敗戦国の日本やドイツをはじめ、膨大な数の命が失われ、いくつもの都市が丸ごと破壊されて産業が壊滅した。そのコストの規模は第二次大戦の「景気刺激効果」をはるかに上回る。

インフラ改善や民間企業への投資ではなく戦争遂行に資源や人的労力を費やすのなら、軍事費という支出は経済的にほぼ無駄になる。カネや人材は戦争以外に使うほうがずっといいはずだ。

つながり合う現代の世界では、戦争は繁栄を阻害する。プーチンがウクライナを再びロシアのものにするという野望に向けて前進すれば、ヨーロッパの東端で泥沼の戦争が起こると想定される。その戦線はバルト3国など、プーチンが目を付けるほかの旧ソ連構成国にも広がるだろう。

「アメリカ・ファースト」を唱える紛れもない孤立主義者、約70年にわたってヨーロッパの平和を守ってきたNATOに懐疑的な人物が米大統領である現状では、戦争勃発で欧州がたちまち景気後退に陥ることもあり得る。

政治学者フランシス・フクヤマは1992年、ソ連崩壊は「歴史の終わり」であり、リベラル民主主義と資本主義が勝利したと書いた。その説を信じた人々にとって、第一次大戦終結から1世紀が過ぎたヨーロッパ、そして世界に広がる混乱は不可解でしかない。欧州市民は今や突然、かつての確実性とかつての同盟関係が崩れ去る不安な世界のただ中に放り込まれている。

今年中、あるいは来年にもヨーロッパで不況は起きるのか。制御不能な事態になるとの見通しが生まれたとき、それは確実に起こる。

<2019年1月15日号掲載>

※2019年1月15日号「世界経済2019:2つの危機」特集はこちらからもお買い求めいただけます。

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、一部銀行の債券投資調査 利益やリスクに

ワールド

香港大規模火災、死者159人・不明31人 修繕住宅

ビジネス

ECB、イタリアに金準備巡る予算修正案の再考を要請

ビジネス

トルコCPI、11月は前年比+31.07% 予想下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 5
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 6
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中