2019年世界経済「EU発の危機」の不気味な現実味
EUROPE IN CRISIS?
イギリスがEUとの合意がないままEUから離脱すれば、その後のEUとの貿易にはWTO(世界貿易機関)の関税ルールが自動的に適用される。これは英経済に壊滅的な打撃を与え、その経済規模は2030年までに3.9%縮小するだろう。その一方で、ヨーロッパの輸出も大打撃を受け、ヨーロッパ経済全体が大きなダメージを被るとみられている。
IMFは2018年7月、EUとの合意なしでブレグジットが実現した場合、EUのGDPは1.5%(約2500億ドル)縮小し、雇用は0.7%(100万)失われるとの見通しを示した。また、このダメージから立ち直るには5〜10年かかるとしている。
イギリス以外のEU27カ国のうち、ブレグジットの最大の打撃を受けるのは、対英輸出の57%を失うことになるドイツだ。一方、GDPの減少幅で見ると、ベルギーが最大のダメージを受ける。対EU輸出がほぼ全てイギリスを経由するアイルランドの経済も4%縮小するだろう。これにオランダとルクセンブルクが続く。ただ、欧州復興開発銀行(EBRD)は2018年11月、合意なしのブレグジットの場合、最大の打撃を受けるのはスロバキア、ハンガリー、ポーランド、リトアニアだとの見方を示している。
EUの拡大はほぼストップし、これまで加盟交渉を続けてきたトルコやマケドニア、モンテネグロ、アルバニア、セルビアは順番待ちの列に据え置かれ、自由貿易圏の拡大がEUに繁栄をもたらすのもお預けになる。
かつて、アメリカがクシャミをすると世界全体が風邪を引くと言われたものだが、グローバル化によって世界経済の相互依存が進んだ結果、主要経済圏が鼻風邪を引くと、世界全体がハンカチに手を伸ばすようになった。つまりヨーロッパの貿易が縮小すれば、貿易相手国の経済にも危機が及ぶはずだ。
現在の世界の3大経済圏はEU、アメリカ、そして中国だ。EUは毎年、世界の富の約4分の1を生み出している。人口5億1300万人の1人当たり平均年間所得は3万7800ドルで、域外貿易は中国やアメリカよりも盛んだ。そんなヨーロッパ経済がつまずけば、すぐに世界に影響が及ぶだろう。
リーダーシップも失われて
経済低迷の懸念と同じタイミングで発生しているのが、EUのリーダーシップの不在だ。欧州の政治的統合の暗黙のリーダーであるドイツのアンゲラ・メルケル首相は、任期満了を迎える2021年に退任するとの意向を示している。もはや死に体となった身であり、ドイツは今後3年間、舵取り役を失うことになる。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は繁栄する力強い統合ヨーロッパという明確なビジョンを掲げ、EUにおいてメルケルの後を継ぐ意欲を表明してきた。だが、その彼を国内からの反発が襲っている。大規模な抗議デモを繰り広げた「黄色いベスト」運動を受けて、制約だらけの雇用・貿易慣行を無効化する経済改革の多くは断念せざるを得なくなった。