トランプ「給料を高く高く高く」政策の成績表 米経済の不安材料は?
WHOSE ECONOMY IS IT?
もしかすると、その状況が変わる兆しが見え始めているのかもしれない。この1年余り、アメリカ企業の設備投資が好調なペースで増加してきた(しかし、7~9月期には数字が大きく落ち込んだ)。いずれにせよ、法人税減税のおかげで好景気がやって来たとまでは言い難い。
それよりも期待を持たせる材料は、賃金が上昇し始めたように見えることだ。平均時給は最近、対前年比で約3%のペースで上昇している。これは、2009年以来の高い数字だ。
これが続けば、トランプ政権の政策転換が触れ込みどおりの効果を生む可能性もありそうに思える。しかし、短期の数字だけで経済の潮流が変わったと結論付けるのは早計だ。
これまでのところ、トランプ政権の下で新規雇用が急激に増加したという事実はない。毎月の数字を見ると、政権が発足してから2年近くの成績は、オバマ政権の最後の2年間と大して違わない。
規制緩和には時間がかかる
とは言え、景気が上昇に転じてからこれだけ長い年数がたってもまだ雇用が力強く増え続けているのは、確かに異例のことだ。2009年に大不況が終わって以降、景気上昇局面が既に10年近く続いているのに、依然として成長が加速している。トランプの経済顧問たちに言わせれば、これがアメリカ経済の「ニューノーマル(新しい常識)」ということらしい。
カドローによれば、経済成長が加速しているのは「減税の効果が表れ始めた」ことも一因だが、景気を後押ししている要因はほかにもある。大規模な規制緩和を約束したことも成長加速の要因だというのだ。
政府が経済への介入を(特に金融、製造、エネルギーの分野で)減らせば、成長が後押しされる場合があるという考え方は、主流派の経済学者の間では異論がない。実際、トランプ政権が主張するように、規制緩和が企業活動を加速させた例もある。
ネブラスカ州リンカーン近郊で製材工場を営むジョン・シモンズは、電力料金が下がることを予想している。トランプがオバマ政権の「クリーン・パワー・プラン」を修正したことが理由だ。オバマ政権は、この政策の下で石炭火力発電所を段階的に減らすことを目指していた。シモンズは、電力料金が安くなれば、投資と賃金を増やすつもりだという。
ヤングズタウン・ツール&ダイは、規制緩和により、従業員の健康と安全に関わる規制に伴う事務作業が減り、時間とコストが節約できている。同じことが経済全体で起きれば、成長が加速する可能性がある。しかし、そのように結論付けるだけのデータはほとんどない。
エコノミストや企業関係者の中には、規制緩和を推し進めると約束されただけで、経済学者の故ジョン・メイナード・ケインズが言うところの「アニマルスピリット」が喚起されたと考えている人たちもいる。つまり、規制緩和に関する政権の方針がアメリカ企業のビジネスに対する野心的意欲を高めたというのだ。
そうしたアニマルスピリットは、経済成長を牽引する要因として働くと言われる。規制が緩和されると思えば、企業は先行きに楽観的になり、投資を増やす。その結果、雇用が増加し、経済が成長するというのだ。しかし、中小企業の景気マインドを表す指標が改善していることは事実だが、アニマルスピリットそのものを数値で計測することはできない。