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日本の2社しか作れない、世界の航空業界を左右する新素材

2018年1月19日(金)17時30分
田宮寛之(東洋経済記者)※東洋経済オンラインより転載

航空機エンジン大手の米国ゼネラル・エレクトリック(GE)と仏サフラン・グループが共同開発したエンジン「LEAP」の高圧タービンには日本カーボンが製造したSiC繊維「ニカロン」が使用されている。エアバス「A320neo」やボーイングの「737MAX」はLEAPを搭載している。

GEはSiC繊維を最新型航空機エンジン「GE9X」にも採用した。GE9Xは現行モデルのGE90に比べて燃費が10%高い。GE9Xはボーイングの次世代旅客機「777X」に搭載される予定だ。

日本カーボンは2012年にGE、サフランと合弁会社NGSアドバンストファイバーを設立(筆頭株主は日本カーボン)、富山工場で年間10トンのSiC繊維を生産している。また、GEが米国アラバマ州で2019年4月から稼働させるSiC繊維工場に日本カーボンが製造ライセンスを供与するほか、稼働後にはサフラン社とともに資本参加する方針だ。アラバマ工場の生産能力も年間10トン。

宇部興産は1980年代半ばからSiC繊維の開発に取り組んでおり、製品名は「チラノ繊維」。ガスバーナーの下に敷いて熱を遮るバーナーマットやディーゼルエンジンの排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルターに採用されている。また、F1自動車のマフラーやターボチャージャー部分、ゴルフクラブ、テニスラケット、スキー板に使用されるなど、民生用での実績は多い。

しかし、ターゲットの本丸は航空機であり、航空機エンジンへの採用に向けて開発を進めている。宇部興産のチラノ繊維を使用したエンジンを航空機に搭載してテストするのは2019年ごろの予定だ。

また、経済産業省の「次世代構造部材・システム技術に関する開発事業」に参画してシキボウ、IHIとともにSiC繊維を用いたエンジン部材開発に取り組んでいる。

山口県宇部に生産能力10~20トンの試験プラントを持つが、新たに準量産ラインを建設中で2018年末に稼働する。宇部興産の永田啓一ポリイミド・機能品事業部長は「2030年以降には100トン程度の生産体制になるだろう」と言う。

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SiC繊維。軽量かつ高強度、耐熱性を兼ね備えた新素材として注目されている(写真:宇部興産)

炭素繊維の100倍という価格が課題

関連機器も動き始めた。住友電工傘下の電力機器メーカー、日新電機の子会社であるNHVコーポレーションは電子線照射装置を製造している。この装置でSiC繊維に電子線を照射するとSiC繊維の耐熱性・強度・耐久性が向上する。特に耐熱性は従来のSiC繊維よりも500度アップする。

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