原油安で独り勝ちする米経済
EIAによると、アメリカの石油生産は今年、日量922万バレルと、72年以来最大となる。なにしろアメリカでは、09年の掘削ブーム以来、「年平均10%のペースで(原油を)増産してきた」と、EIAのヘスは語る。それでも来年は日量40万バレル(約4%)の減産が実施されると、EIAは予想する。
原油価格の急落を受け、生産企業や輸出企業は掘削規模や人員を削減して、採算を合わせてきた。その節減分は計1800億ドルに達する。だが、アメリカでは、国産石油の輸出が禁止されていることもあり、石油備蓄は昨年の水準を25%も上回る。
中東の主要産油国サウジアラビア、イラク、イランの三つどもえの競争も、過剰供給に拍車を掛けている。IEAによると、イランは7月の核開発協議での合意に基づく経済制裁解除を見据え、OPEC(石油輸出国機構)でサウジアラビアに次ぐ産油国の座を取り戻すべく、積極的な輸出を開始するとみられている。
一方、OPECの盟主サウジアラビアは昨年11月、原油価格を上昇させるための一方的な減産を否定。むしろ増産によって、価格下落分を取り戻す姿勢を明確にした。しかしIMF(国際通貨基金)の予測によると、サウジアラビアは今年の財政赤字が1500億ドルに達しそうだ。
8月末、OPECは「公正かつ合理的な(原油)価格」を確保するために、「あらゆる産油国と協議する準備がある」と表明した。OPECはかつて政治的な手段として、減産によって原油価格をつり上げたことがあるが、今回はそうしたコンセンサスを築けそうにない。
アメリカでの掘削プロジェクト削減や、世界的なエネルギー需要拡大で、原油価格は来年にも上昇に転じるとされる。だが多くの業界関係者は、原油安の長期化という「ニューノーマル」を受け入れつつあるようだ。
[2015年10月 6日号掲載]