人類滅亡後もデータを残せ
難点はコストだ。石英ガラス製の5インチ(約12・7センチ)ディスクはおよそ500ドル。ディスクにデータを記録する超高速レーザーは10万ドルもする。カザンスキーによると、「大量生産ベースに乗れば、10分の1か、100分の1まで」コストダウンできるという。
公文書館や博物館、図書館、さらには大量のデータを扱う民間機関などに需要があると、カザンスキーはみている。「ハードドライブは比較的寿命が短いので、5~10年ごとにデータを移す必要がある」
それに比べ、石英ガラスに記録した聖書のコピーは「人類滅亡後も残る」という。
日本の日立製作所も石英ガラスにデータを記録する独自技術を開発中だ。これまでのテストで3億年の保存に耐え得る性能を実証できた。
ただし、石英ガラスのストレージは記憶容量が限られている。サザンプトン大学チームと日立の石英ガラスの記録密度は、いずれも最高で1平方インチ当たり40メガバイト。これはCDの記録密度35メガバイトを上回るが、標準的なハードディスク(最高で1テラバイト)には程遠い。
この問題の解決に役立ちそうなのが私たちの細胞内にあるDNAだ。DNAを構成する4つの塩基、A(アデニン)G(グアニン)C(シトシン)T(チミン)は配列によって英語や中国語、さらにはプログラミング言語を表す文字の役割もする。
遺伝暗号がぎっしり詰まったDNAの記憶容量は1グラム当たり700テラバイト。従来のあらゆる記憶媒体を圧倒する数字だ。
生きた細胞組織を使って作品をつくるバイオ・アーティストのジョー・デービスは、あるリンゴの栽培に取り組んでいる。英語版ウィキペディアの膨大な情報を塩基配列に置き換え、合成生物学の技術を使ってリンゴのDNAに組み込むのだ。
DNAの分子コードにデータを記録する技術を開発したハーバード大学医学大学院の遺伝学教授ジョージ・チャーチは、自著の原稿を、ピリオドより小さな1粒大の合成DNAに記録。700億冊分の複製が親指大の大きさに収まった。理想的な環境で70万年、保存できるという。ちなみに、グーテンベルクが活版印刷を使って世界で初めて聖書を印刷したのは560年前だ。
解読技術も一緒に保存
もっとも、実用化はかなり先の話だ。現在のDNAシークエンシング(塩基配列の自動解読技術)では、1日に読み取れる情報量は12・5ギガバイト。映像フィルム16時間分だが、パソコンで映画を1本ダウンロードする時間を考えたら遅くて気が遠くなる。さらに、データの記録と読み取りには高度な装置が必要で、特別な研究室でしか扱えない。