人類滅亡後もデータを残せ
現代の情報がデジタルの暗黒時代を生き延びるヒントになりそうなのが、21世紀版ロゼッタ・ストーンだ。NPOのロング・ナウ協会が取り組む「ロゼッタ・ディスク」プロジェクトは、直径3インチのニッケル製ディスクに1万3000ページ分の言語情報をレーザーで刻み込む。
主な目的は、世界中の言語を包括した翻訳アーカイブを後世に残すことだ。そのためにはできるだけ多くの言語で書かれた同じテキストが必要で、例えば旧約聖書の創世記のうち最初の3章が、1500種類の言語で刻まれている。
1ページの横幅は400ミクロンで、人間の毛髪5本分。DNAに比べれば「巨大」だ。刻んだ文字は、数百年前から使われている拡大技術を使った一般的な光学顕微鏡で読み取ることができる。
「もっと高密度で情報を格納することもできたが、そのレベルのデータを拡大して読み取る技術の開発には長い年月がかかりそうだ」と、プロジェクトに参加する言語学者のローラ・ウェルチャーは言う。
ロング・ナウは、「このフロッピーはもう読めない!」という現実的な脅威に耐える文書保存にも取り組んでいる。「ロング・サーバー」は、ファイルを汎用性のあるフォーマットに変換できるソフトウエアのデータベースで、その昔に「.pcx」で保存した大量のファイルも「.jpg」に変換して開ける。
インターネットの父サーフはさらに、デジタルデータだけでなく、その解読に必要な技術も保存する「デジタル羊皮紙」の概念を提唱している。
OSX10・8・5で動くアップルのパソコンでマイクロソフトのワードを使って作成したファイルを、100年後に開きたいときも大丈夫。どんなマシンでも、100年前と同じOS環境を復元して、同じバージョンのワードを使ってファイルを開くことができる。
このようなプロジェクトは、とにかく早く始めるべきだ。デジタル化によって、私たちはとてつもない量のデータを生成できるようになった。IBMによると、世界に存在する全データの90%は過去2年間に生成されている。
そのほんの一部を保存するだけで、人類にとって最も豊かな歴史の記録となる。しかし、これらの情報を守り抜くことができなければ、とりわけ革新的な時代の記録が失われかねない。
[2015年7月14日号掲載]