最新記事

連載「転機の日本経済」(5)後半

日本経済の真の課題 後半(最終回)

2015年7月27日(月)18時45分

 つまり、経済は生産と投資で成り立っており、生産しすぎれば、将来への投資がおろそかになり、両方を無限に同時に拡大することはできないのだ。カネには限りがある。

 人にはもっと限りがあり、しかも、日本は人手不足であり、これは構造的に続く。その希少な労働力、特に若年労働力を目先の営業にこき使えば、彼らが将来への勉強となる仕事の経験が積めず、今は企業が儲かり、ボーナスが出るかもしれないが、将来の雇用の持続性が危うくなる。あるいは付加価値の高い仕事ができなくなり、給料が上がらなくなる。最悪の場合は、ブラック企業が働かせすぎて、肉体的にも精神的も壊れてしまい、一生、労働力としても使えなくなるどころか、人間として不幸になる。

 したがって、景気はちょうど良い景気が重要なのであり、景気循環だから良くもなり悪くも成る。その循環の振幅が大きすぎると経済が不安定になり、前述のような投資も落ち着いてできなくなるから、なだらかにした方がいい。これが景気対策である。金融政策というのは、このように景気が過熱したときに、過熱しすぎて投資できなくなったり、物価が上がりすぎたりして、経済が買えって非効率になるのを防ぐために、引き締めを行うのである。近年のように、常に景気を拡大するのは、景気対策ではない。

「デフレ脱却」は呪いの呪文

 では、なぜ、近年、景気対策が行われ続けたのだろうか。それは、潜在成長率という実力が落ちてきたにもかかわらず、それを認識せず、あるいは認識しても、それを受け入れられず、目先のGDPの増加を求めてきたからである。政治家もエコノミストもGDPの増大は是であり、その増加率が落ちてきたことに対して、それを引き上げることが経済の最優先課題であると思い込んで(株式市場関係者など一部の人々は確信犯的に)、経済の将来性を失う過度な景気対策を行ってきたのである。

 あるいは、もう少し同情的に言えば、潜在成長率が落ちているという事実を認めたくなくて、無理矢理足元のGDP増加率を上げることで、何か勢いで流れが変わるようなことを祈って、あるいは呪文を唱えてきたのかもしれない。

 アベノミクスのデフレ脱却の呪文は、株式市場の悲観を打破するにはプラスの効果を発揮したが、潜在成長率の引き上げの為には、むしろ、負の呪文だった。呪いの言葉として、デフレ脱却を唱えれば唱えるほど、経済の将来性、潜在成長力は失われていったのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ大統領、強制送還移民受け入れの用意 トラン

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は売上高と利益が予

ビジネス

10月全国消費者物価(除く生鮮)は前年比+2.3%

ワールド

ノルウェーGDP、第3四半期は前期比+0.5% 予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中