最新記事

ベンチャー

シリコンバレーが起業家を殺す

2015年7月15日(水)18時52分
ケビン・メイニー

 米国勢調査局のデータによると、アメリカ全体では2000年代初めに比べ、10年代には新会社の設立件数が約25%減っている。この数字について、ブルッキングズ研究所は14年の報告書で「アメリカ経済がじわじわと活力を失っていることを示す」と警鐘を鳴らしている。

 カンザスシティーの商工会議所は4年前、「アメリカで最も起業家精神に富む都市」を目指して、スタートアップ支援事業を立ち上げた。だが、「十分な資金が集まらず、多くの企業が撤退していった」と、テリー・ダン会頭はうなだれる。

 考えてみれば、単純な話だ。ベンチャー資本の供給には限りがある。シリコンバレーに流入する資金が増えれば、当然他の地域に回る資金は減る。

 もっとも、シリコンバレーでも新たに設立される会社の数は95〜00年のドットコムバブル期と比べると減っている。つまり、かつては全米の新興企業に広く薄く配分された資金が、今ではシリコンバレーの少数のベンチャーに集中しているということだ。その結果、シリコンバレーの新興企業の時価総額が異常に高く見積もられることになる。配車サービスアプリのウーバーが推定500億ドル、社内チャットアプリのスラックが30億ドルといった具合だ。

地方都市が取り残される

 こうなったのも、デジタル化が急速に進んだからだ。今や生活やビジネスのあらゆる面にデジタル技術が浸透している。ハイテクとは無縁とみられていたタクシー業界にも、ウーバーやリフトのようなアプリサービス会社が参入、破壊的なイノベーションが進みつつある。

 あるビジネスをデジタル化し、クラウド上で展開すれば、短期間に市場を独占できる。クラウド上で提供されるサービスは、あっという間に世界中に普及するからだ。新サービスが定着し、潤沢な資金を調達できたら、他社の参入をほぼ確実にシャットアウトできる。

 賢い投資家はそれを知っているから、二番煎じの新興企業には投資したがらない。そのため、多くの起業家は起業のチャンスすら得られなくなる。

 IPO(新規株式公開)を先送りにして、未上場のまま巨額の資金を調達するスタートアップ企業が増えていることも資金の集中につながる。未公開株取引では、少数の投資家が投資先を決めることになるが、そうした投資家の多くはシリコンバレーに拠点を置いているからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:ドバイ「黄金の街」、金価格高騰で宝飾品需

ワールド

アングル:ミャンマー特殊詐欺拠点、衛星通信利用で「

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 9
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中