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世界企業に「尊厳」を求め始めた新興中流層

2015年7月1日(水)17時14分
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)

 いま世界で一層大きな力を持ち始めている中流層が求めているのは、英語の同じ「d」で始まる言葉であっても「デモクラシー(民主主義)」ではなく、「ディグニティー(尊厳)」だろう。

「アラブの春」と呼ばれる中東・北アフリカの連鎖的な民主化運動は、自らの尊厳が守られていないと感じた中流層が原動力になった。腐敗、独裁、経済、環境汚染、物価高に苦しめられてきた彼ら(特にソーシャルメディアで外の世界を知ることができる若者)が、もう我慢できないと立ち上がったのだ。

「安全」だけでは足りない

 新しい中流層はネットワークでつながっている。いまスマートフォンの利用者は、世界で約20億人。19年には51億6000万人に増え、携帯電話の出荷数は90億に達するという推計もある。中流層と関わる企業や行政機関にとって、この数字は期待と同時に危機感をかき立てる。

 新興市場の中流層は、電力不足や交通渋滞など「尊厳」のかけらもない環境で暮らしている。彼らは欧米の多国籍企業なら信頼していいと感じていた。ネスレにとっては信頼回復が急務だ。

 特別な戦術や派手な広告はいらない。隣国パキスタンを見ればわかる。公共バスの新サービスによって、パキスタンではシャリフ首相の人気が急上昇。政府は3都市で7億ドルを投じ、信号のない専用レーンにエアコン付きバスを走らせている。農民も中流層も官僚も、清潔で時間に正確なバスを安心して利用できるようになった。人々はバスの中で過ごす短い時間にも、自らの「尊厳」が保たれていると感じることができる。

 ネスレは長年にわたり、安全な食品を提供してきた(すべてが健康的とは言えないかもしれないが)。今回のインドでの騒動もやがて収束するだろう。

 1つ付け加えれば、ネスレがすべきなのは安全性をアピールすることだけでなく、インド人の尊厳を大切にすることだ。

[2015年6月23日号掲載]

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