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ファストフード不景気をぶっ飛ばす新発想タコス
売上高でKFCもマクドナルドも抜いたタコベルが示す雇用創出への処方箋
若者に人気 スナック菓子のドリトスを皮に使ったタコスは1日に100万個も売れた Fred Prouser-Reuters
ここ1年ほどアナリストは、米雇用が伸び悩む元凶として、財政の崖や歳出の強制削減といった政治的要因を挙げてきた。だが雇用市場を活性化させたのは別の要因──より強力で、よりうまみのある要因が働いたようだ。
それはドリトス・ロコス・タコス。スナック菓子の定番「ドリトス」のナチョチーズ味で作ったパリパリの皮にミンチ肉と野菜を詰めた新発想のタコスだ。米ファストフードチェーン、タコベルが昨年発売したヒット商品で年間3億7500万個、1日にざっと100万個が売れた。
おかげでタコベルは売り上げを驚異的に伸ばし、伸び率ではケンタッキー・フライドチキン(KFC)とピザハットばかりか、マクドナルドまで上回った。「タコベル創業以来、最も当たった新製品だ」と、グレッグ・クリードCEOは言う。昨年の既存店の売上高は8%増え、人員も1万5000人増強した。
小さなタコスが雇用創出に大きく貢献したわけだ。気をよくしたタコベルは先月、第2弾としてドリトスの別フレーバーを使ったクールランチ・ドリトス・ロコス・タコスを発売した。
タコベルの成功が物語るのは、慢性的な金欠病にあえぐアメリカ人消費者も革新的な新製品には飛び付くという事実だ。それにしても、ヘルシーなグルメ料理が求められる時代に、タコベルはなぜ成功したのだろう。
クリードによると、中心的な客層である若者、それも主に男性に的を絞った戦略が奏功した。彼らは手っ取り早いエネルギー源として安いファストフードをぱくつく。
スナック菓子メーカーのフリトレー社との提携も成長を支えている。フリトレーの人気商品ドリトスを使ったタコスは「わが社の専売特許だ」と、クリードは胸を張る。「おかげで今後10年間に、国内だけで2000店舗増やせる見込みだ」
「人に優しい企業」が売り
アメリカ国内での拡大にこだわるのも、タコベル独自の戦略だ。マクドナルドは売り上げの約3分の2を国外で稼いでいる。KFCとピザハットのチェーン店も国外が大半で、中国だけで何千店舗も展開している。
それに比べてタコベルの国外店舗は約280しかなく、それもカナダが大半だ。タコスの本場メキシコには1店舗もなく、インドでもわずか3店舗。もともとKFCやピザハットに比べ小規模資本であることと、タコスは外国の消費者にあまりなじみがないことが国内志向の背景にある。
加えて、短期間に国外進出を進めると、食材の品質などで問題が起きかねない。KFCは中国産鶏肉の安全性問題で打撃を受けた。ヨーロッパで牛肉として売られていた食肉に馬肉が混入していた問題では、タコベルもイギリスで販売した一部商品への混入を認め、謝罪した。
問題はそれだけではない。ファストフードチェーンは労働集約型の産業だ。オバマ政権は医療保険制度を改革し、最低賃金の引き上げも目指している。人件費の膨張が経営を圧迫する心配はないのか。「新医療保険制度の導入は14年だ。既に系列店スタッフの保険加入コストはほぼ把握できている」と、クリードは言う。
福利厚生の充実はブランドイメージの向上にもつながると、クリードは考えている。「顧客は商品の品質だけではなく、人に優しい会社かどうかで企業を評価する」
グルメ志向が高まるなか、商品の味以上に従業員の待遇をアピールするタコベル。長期的に見れば、B級グルメチェーンの成功にはそんな戦略も効果的かもしれない。
[2013年4月 9日号掲載]