最新記事

アップル

iPadミニの強気価格は裏目に出る?

その気になればキンドル並みに安くもできたはずだが、高価格のままクリスマス完売を目指す

2012年10月25日(木)16時50分
マシュー・イグレシアス

待望の7インチ 新発売のiPadミニの価格は、予想を上回っていた Robert Galbraith-Reuters

 アップルが期待の小型・軽量タブレッド端末「iPadミニ」の価格を329ドルと発表した10月23日、英フィナンシャル・タイムズは「iPadミニの価格設定を投資家が懸念」と題した記事を掲載した。なんとも奇妙なタイトルだ。

 329ドルという価格設定は事前に予想されたよりやや高めだったから、一消費者の立場で言えば、もちろんもっと安いに越したことはない。だが一方で、私はアップル社の株式19株を所有する株主でもある。株主の視点で見れば、高めの価格設定は悪い話ではないはず。なのになぜ、懸念を感じる必要があるのだろう?

 iPadミニと同時に発表された、高精細なレティーナディスプレイ採用の「第4世代iPad」を見ると、そのからくりがわかる。調査会社iSuppliによれば、第4世代iPadの最下位モデルの製造コストは316ドル。つまり、理屈上はiPadミニと同じ329ドルでも、利益を出せる計算になる。

 だが、アップルはこの最下位モデルの小売価格を490ドルとした。なぜか。仮に新型iPadが329ドルという劇的な低価格で手に入れば、消費者は大喜びだろう。だが投資家にとっては、大きな懸念材料となる。グーグルやアマゾンとの競争が激化し、アップルの利幅が食われていることを明確に示唆するサインとなるからだ。

アップルが「アマゾン」になる日

 iPadミニの割高な価格設定は、そんな「利幅縮小」シナリオとは正反対の動きだ。アップル流の大きな利幅を維持できる強気の価格設定をしても、今年のクリスマス商戦でiPadミニをほぼ完売できる、という自信の表れだからだ。

 もっとも、それは根拠のない自信に過ぎず、多くの在庫が残る可能性もある。小型のタブレット市場で勝つ唯一の方法はアマゾンの電子書籍端末キンドルのように、ほとんど利益が出ない低価格路線なのかもしれない。

 iSuppliのデータによれば、第4世代iPadの最下位モデルの利幅は37%。iPadミニの329ドルという小売価格にも同じ37%の利幅が含まれていると仮定すれば、原価は207ドルだ。アマゾンの「キンドル・ファイアHD(広告なしバージョン)」の小売価格が214ドルだから、アップルが本気でアマゾンに対抗したければ、iPadミニを207ドルで売り出すこともおそらくは可能だろう。

 だが、そんなことが現実になれば、アップルの株主にとっては悪夢だ。アップルがアマゾンのように利幅の小さい企業に変わってしまうのだから。

 しかも、その悪夢はいつか現実になる可能性が高い。アップルがいつまでも従来のような大きな利幅を守るのは難しいだろう。iPadミニに付けられた329ドルの値札は、アップルが今も従来路線を貫けると信じていることの証だが。

© 2012, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中