プライバシーも過保護は禁物
個人情報の保護強化でグーグルユーザーのメリットが激減する?
トレードオフ プライバシーを守れば守るほど利便性は減ってしまう Arnd Wiegmann-Reuters
ネット上のプライバシーはどこまで守られるべきか。その議論を飛び越えて、規制だけが強化されている。
グーグルは3月末、新サービスのプライバシー侵害をめぐって米連邦取引委員会(FTC)との包括的な和解案に合意した。和解案には2年ごとの「プライバシー監査」も含まれる。グーグルは昨年2月、電子メールサービス「Gメール」にソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「グーグル・バズ」を追加。そのバズをめぐって、プライバシー保護を強化するようFTCから求められていた。
FTCが言うには、バズは欠陥だらけ。ユーザーが参加を望まなくても一部機能が自動的に有効になっており、「無効にする」を選んでもバズのネットワークから個人情報を完全には削除できなかった。自発的に参加した場合でも、個人情報を公開しない方法が明示されていなかった。
バズはグーグル自体のプライバシーポリシーに違反していたという。同社の規定では、ある製品で入手した個人情報を別の目的に使う場合は本人の承諾を得ることになっている。ところが今回グーグルはGメールで集めた情報を、本人の承諾を得ずにGメールとはまったく無関係のSNSサービスを構築するのに利用した。
以上の違反により、グーグルはインターネットサービス企業で唯一、個人情報の取り扱いについて2年ごとの外部監査を20年間受けることに同意した。
グーグルは過ちを償うべきだというFTCの主張はうなずける(グーグルは謝罪し、プライバシー保護規定を見直したとしている)。外部監査も賢明なやり方をすれば、公正さを保つのに役立つかもしれない。
しかし心配なのはそこだ。監査は本当に適正に実施されるだろうか。過度の規制でグーグルがユーザーの情報を収集・分析できなくなるかもしれない。そうなったら悲惨だ。
インフルエンザの予測も
ネットサービス企業が収集する個人情報は大まかに分けて2種類──個人を特定できる情報(氏名や友人リストなど)と、個人には結び付かない情報だ。プライバシーについて論じるとき、私たちはこの重要な区別をめったにしない。企業が個人情報を集めることのデメリットには注目するが、個人情報がなければ不可能な技術革新のメリットには目を向けようとしない。特に匿名情報は個人の特定には役立たないが、目覚ましい技術革新の基盤となり得る。
実際、グーグルの最も人気のある機能の一部は、個人情報抜きでは実現しなかった。例えばスペルチェック機能。「レベッカ・ブラック」のスペルを間違って入力しても正しいスペルが分かる。普通の辞書ベースのスペルチェックではできない芸当だ。つい最近まで無名だった有名人の名前なのだから。しかしグーグルは他のユーザーの検索履歴を大量に蓄積しているので、ブラックが「フライデー」という曲で一躍有名になった13歳の少女のことだと分かる。