プライバシーも過保護は禁物
大規模なデータ蓄積が可能にするのはスペルチェック機能だけにとどまらない。例えば音声認識は、無数の音声サンプルとテキストを基に人間の発話を理解する方法を機械に教える。
検索ログを分析してコンピューターのセキュリティーに対する大規模な脅威を察知することもできる。異常な検索(ウイルスが脆弱なサーバーを探すために行う)に気付けば、ウイルスをその場で阻止できる。
「クラウドソース方式の交通情報」もある。グーグルマップの「マイロケーション」機能を使えば、ユーザーはいつでも匿名で自分が現在どこにいるかの位置情報を送信できる。グーグルはその情報を収集・分析し、幹線道路はもちろん一般道路についてもリアルタイムの交通情報を作成できる。
さらに重要な分野は予測だ。現在何が検索されているかを調べることで、グーグルは将来何が起きるかを推測できる。グーグルは08年、世界各地のユーザーの検索傾向からインフルエンザの流行を予測するサイト「グーグル・フル・トレンズ」を公開。09年の論文によれば、グーグル検索を使って小売りや失業保険申請など経済データも予測できる。
スペルチェック、フル・トレンズ、音声認識といったデータに基づく機能は、どれも計画的なものではなかった。グーグルはスペルチェック機能構築のために検索キーワードの蓄積を始めたのではない。キーワードの蓄積を始めたからスペルチェック機能を構築でき、最終的にはデータベースが役に立つ可能性に気付いたのだ。
「被害妄想」的な部分も
つまり、オンライン上のプライバシーについて過保護になるのは危険ということ。私たちは企業が個人情報の蓄積を減らし、複雑な手続きを踏まなければ増やせないようにすべきだと主張する。米議員はネットサービス企業のプライバシー管理を強化する法案を推進している。FTCとグーグルの和解をすべてのネットサービス企業に拡大しようという動きまである。
プライバシー対策の強化が誠意ある議論のたまものなら、私は反対しない。問題はユーザーがめったにプライバシーについてきちんと議論しないことだ。
ネット上の「プライバシー」を守れと言うとき、ユーザーは正直なところ何を求めているのか。自分がネット上にこぼした情報を1つ残らず管理することだろうか。
個人情報保護を訴える多くの人々は、匿名情報と個人を特定できる情報の区別が薄れつつあるのではないかと懸念している。ネットサービス企業が広範なデータ蓄積によって、「匿名」であるはずの情報を分析して個人を特定できるのではないか、と。そこで一部の規制当局は、企業が蓄積する匿名情報を制限することを提案している。
しかしユーザーは、代償を承知しておくべきだ。確かに企業はユーザーの行動の多くを追跡する。それでも今度単語のスペルを間違えたり、渋滞に巻き込まれたり、コンピューターがウイルスでシャットダウンしたら、思い出そう。追跡されるのもまんざら悪くない、と。
©2011 WashingtonPost.Newsweek Interactive Co. LLC
[2011年4月27日号掲載]