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貿易世界最大の貿易障壁はWTO
世界で決めようと無理するより地域間合意を積み上げていくほうが経済的にも合理的
不毛 153カ国・地域が一堂に会しても壮観なだけで何も決まらない Denis Balibouse-Reuters
今年末に期限を迎えるWTOの新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)を救うため、153カ国・地域の代表が今週、ジュネーブに集結する。だが、その成否は人々の生活にほぼ関係ない。貿易交渉はWTO抜きのほうがはるかに前進するからだ。
ドーハ・ラウンドで貿易障壁が低くなれば、最大の受益者は途上国だというのは建前にすぎない。01年時点の推定で年間2000億ドルとされた恩恵の受け手はナイジェリアやネパールのような貧困国ではなく、中国やブラジルなど既にかなりの発展を遂げた貿易大国だ。
WTO交渉は前にも決裂したことがあるし、今度もそうかもしれない。だからといってこの10年間、あらゆる貿易交渉が麻痺状態だったわけではない。それどころか世界ではかつてないペースで二国間や地域間の自由貿易協定が締結されている。
そして自由貿易の未来もここにある。ユートピア的な世界的合意ではなく、もっと実務ベースの地域交渉だ。
全加盟国に拒否権の悪平等主義
WTO最大の問題の1つは、全加盟国が拒否権を持つ平等主義だ。現実には、貿易障壁撤廃で153カ国すべての賛成を得るのは、子犬にシンクロナイズドスイミングを教えるようなもの。前進の道は唯一、貿易交渉をWTOから解放することだ。地域の貿易相手国同士で自発的交渉を進めればいい。
世界は最終的に4〜5つのブロックにまとまるだろう。おのおののブロックの顔触れは貧困国から先進国までさまざまになる。こうした補完的な組み合わせが、最も自由貿易の恩恵を引き出しやすいからだ。富裕国は貧困国の原材料や労働力を必要とする。貧困国は富裕国に輸出ができる。それぞれのブロックは市場も大きく多様性に富んでいるので、ブロックの外の国々と貿易交渉をする必要はない。
その代わり、ブロック内の国々の貿易障壁をなくすことに集中する。先に自由化した国は、それだけ早く貿易の果実を得ることができ、所得も増加する。特に諸外国の技術やスキルを活用できる貧しい国は、それだけ所得の伸びも大きくなる。
その結果、ブロック内の国々の間では次第に所得や賃金が平準化してくる。すると、より安い原料や労働力を求めてブロック外の世界におのずと目が向く。ブロック同士が自由貿易交渉を望み出す段階だ。これこそが世界的貿易交渉の自然な姿と言える。WTO発足時の目標どおり、WTOが必要ない世界だ。
[2011年3月 2日号掲載]