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世界経済

金融の「衝撃と畏怖」作戦を実施せよ

2010年10月14日(木)17時56分
バリー・アイケングリーン(カリフォルニア大学バークレー校・経済学教授)

 中国人民銀行(と中国政府)も、人民元を安く抑えて輸出を増やすべきだという過去の常識にとらわれている。輸出だけに頼っていては、中国が永続的に成長するのは不可能だ。中国は国内需要を重視する経済に向けてバランスを見直すべきで、最も手っ取り早いのが人民元の上昇を認めることだ。
 
 その恩恵を受けるのは、中国だけではない。自国通貨が強すぎるせいで製造業に悪影響が出ているブラジルやインドのような新興市場の負担も軽減される。労働力が安いせいもあって、そうした国の製造業は先進国よりずっと大規模なレベルで中国と競合している。人民元の上昇ですべての問題が解決されるわけではないが、少なくとも新興国の製造業が中国に対抗しやすくなるのは確かだ。

FRBのぶれない態度が中国を動かす

 対立や非難合戦に陥るのを避ける方法はある。必要なのは、日英米の3つの主要な中央銀行のリーダーシップだ。FRBは躊躇することなく、めざす量的緩和の規模を明確にすべきだ。段階的に量的緩和を行うのか、一気に緩和を進める「衝撃と畏怖」作戦を取るのか明確にされていないせいで、ドルは不安定な値動きを続けている。

 FRBが方針を明確に打ち出せば、ドルの為替レートが安定するだけでなく、他国の中央銀行が方針を調整しやすくなるという利点もある。特に「衝撃と畏怖」作戦を実行する場合、中国側が対抗策を用意しやすくなる。

 インフレの渦中にある中国にとって、さらなる低金利状態は望ましくない事態。経済を軟着陸させる最善の策は、ドルペッグ制を終了してFRBの政策に振り回されないようにすることだ。

 それを実現する際の唯一の障害は、中国以外の国々のケンカ好きな政治家や評論家。中国政府はメンツを失うことを何より嫌うのだ。なのに、中国事情に詳しいティモシー・ガイトナー米財務長官でさえ、国内の政治的事情に配慮して、中国にケンカを売らざるをえないと感じている。

 ECBはインフレとの戦いを切り上げて、新たな戦いに向かうべきだ。もし1ユーロ1・50ドルというユーロ高になったら、欧州経済は崩壊し、ギリシャやアイルランドをはじめとする緊縮財政国家は破綻するだろう。そして、すべての責任はECBに帰される。

 予言しよう。市場の予想に反して、ECBは量的緩和という世界の流れに加わるだろう。ただし、問題はその時期が遅すぎるのではないかという点だ。

Reprinted with permission from "FP Passport", 10/2010. ©2010 by The Washington Post Company.

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