究極のiPadアプリ「フリップボード」
ツイッターやフェースブックの必要な情報だけを雑誌風にレイアウトしてくれる「ソーシャルマガジン」が超便利
アクセス殺到 フリップボードを初めて無料公開した7月には、20分でサーバーがダウンした Courtesy of Flipboard
米フリップボード社の本社はこのところとても活気に満ちている。従業員わずか19人の同社は7月に初のiPad用アプリケーションソフト「フリップボード」を無料で提供し始めた。するとダウンロードのアクセスが殺到し、サーバーは20分でダウン。取りあえず利用希望者をウエーティングリストに載せるのが精いっぱいで、希望者全員の登録が終了したのは2週間後だった。「反響は予想を超えていた」と、同社の共同創設者でありCEO(最高経営責任者)のマイク・マキューは言う。
現在43歳のマキューは今から10年前、電話からの音声で市況や映画情報などを検索できるソフトを作るテルミー・ネットワークス社を創業。07年に同社を推定8億ドルでマイクロソフトに売却した。そんな彼にとっても、このアプリへの反応は「これまで見たことのないものだった」という。
何がすごいのか。フリップボード社が開発したのは、利用者がフェースブックやツイッター上で友人から得た情報を取り込み、それをマキューが言うところの「世界初のソーシャルマガジン」として表示するツールだ。
カスタマイズされたジャーナリズム
ツイッター上にある記事へのリンクは小さくて見にくいが、フリップボードではお気に入りの記事や画像などの情報を整理して、雑誌のようなレイアウトで見ることができる。閲覧するには、雑誌のページをめくるのと同じように指先で軽くはじくだけでいい。
私は映画評論家ロジャー・エバートのツイッターをフォローしているが、エバートはウェブ上の記事や写真へのリンクを次々と発信している。ツイッターで彼の記事を読むためには各リンクをいちいちクリックしなければならず面倒だ。だがフリップボードを使えば、面白くてセンスのある編集者が発行する小型雑誌を購読しているような素晴らしい体験ができる。
このアプリを使えば、ツイッターから情報を集めている人は誰でも雑誌の管理人になることができる。私たちは、完全にカスタマイズ化されたジャーナリズムの世界へと足を踏み入れつつある。そしてこの変革の担い手は巨大メディア複合企業ではなく、シリコンバレーのちっぽけな一企業なのだ。
問題があるとすれば、表示されるデータのほとんどがエバートやフリップボードの所有物ではないということ。ほかのウェブサイトからコンテンツを「かき集める」やり方は違法ではないか、とブロガーたちは騒いでいる。
マイクロソフト出身とアップル出身
だがマキューによれば問題はない。表示しているのは記事の一部だし、リンク先として元のアドレスを組み込んでいるからだ。アプリ公開から4日間のうちにメディア企業150社がマキューに電話をかけてきて、彼との面会やフリップボードの「おすすめリスト」への掲載を希望した。
マキューのパートナーはかつてアップルのエンジニアだった29歳のエバン・ドールだ。ツイッター上でニュースを読みにくいと感じた2人は「ソーシャルマガジン」のコンセプトを思い付いた。アップルが1月に発表したiPadがソーシャルマガジンにとって理想的な機器だと気付くと、すぐにプログラムの作成を始めた。
フリップボードはビジネスモデルを確立したわけではないが、記事の隣に広告を表示してウェブ記事の発信元と広告収入の一部を分け合うことを計画している。iPad上でアプリに表示される広告は安っぽいものではない、より「上質」なものになるとマキューは確信している。