最新記事

バブル後遺症

アメリカは日本にはならない、普通なら

「日本恐怖症」は景気刺激策の是非をめぐる政治論争の道具にされ、日本から学ぶべき最大の教訓、不良債権処理については何も語られていない

2010年8月19日(木)18時35分
ジェームズ・レッドベター

恐怖のDワード 「デフレ懸念」と言われただけで震え上がるほどバブル崩壊後の日本の記憶は生々しい Rick Wilking-Reuters

 不況に見舞われたアメリカはバブル崩壊後の日本のように「失われた10年」に突入する――そんな議論が沸き起こったのは08年9月のリーマン・ブラザーズ破綻の直後だった。以来、この「日本的バブル後遺症」への警戒論は繰り返し浮上している。

 アメリカ経済が過去4四半期にわたってプラス成長を続けてきた事実を前に、こんな警戒論は力を失うはずだと思うかもしれないがさにあらず。景気後退局面に逆戻りするとの予測や高止まりしたままの失業率、騒がれすぎのデフレ懸念を背景に、「日本型バブル後遺症」への警戒論はゴジラ映画のリメイク作品のごとくよみがえっている。

 実のところ、当時の日本と今のアメリカの間に共通点はほとんどない。それでも景気回復が実感できるようになるまで、警戒論を唱えることに意義を見出し、わずかな材料を元にもっともらしい主張をする経済評論家(一流の人も含め)は後を絶たないだろう。

 この警戒論をどう扱うかで、アメリカ政府の景気刺激策に対するその人の考えが見えてくる。つまり、日本型バブル後遺症への警鐘を鳴らしている人々は2つの陣営に分かれている。1つは日本の例を元に、景気刺激策など何の役にも立たないと主張している陣営だ(リーズン財団の他、ウォールストリート・ジャーナル紙もこの陣営だ)。

 もう1つは、当時の日本の景気刺激策がうまく行かなかったのは規模が小さすぎた上に開始時期も遅すぎたせいだと考え、日本の二の舞になることを恐れている陣営だ(ポール・クルーグマンが代表格)。

 問題は、この警戒論が恐怖心やアメリカ人としてのプライドとない交ぜになっていて、まともな分析を受け付けようとしない点にある。90年に始まった日本の経済危機は表面的にはアメリカの景気後退に似た部分もあるが、根っこにある状況はかなり異なっている。例えば――。

■バブルの規模と崩壊の影響の大きさ

 オリエンタル・エコノミスト・リポート紙のリチャード・カッツ編集長はフォーリン・アフェアーズ誌の09年3-4月号に寄せた論文で、81〜91年の日本の6大都市における商業地の地価は500%上昇したと指摘した。

 これに対し、アメリカの20大都市における96〜06年にかけての住宅価格の上昇率は200%。バブル崩壊の余波もぐっと軽微なものだった。例え今後もアメリカの住宅価格が下落を続けたとしても、96年レベルを下回るのはまだ当分先のことだ。だが日本では、地価が81年のレベルを大きく下回る時代が長く続いた。

■企業の体力

 景気刺激策の効果に懐疑的な人々はえてして、民間企業の力を信じるべきだと主張する。そんな彼らでも、アメリカ企業の財務状況の健全性にはほとんど目を向けようとしない。

 確かにアメリカの金融機関と自動車産業は瀕死の状態まで追い込まれた。だがそれ以外の業界では最近、過去最高益を記録した(一方で債務残高はそれほど高くない)という企業が少なくない。

 対照的に、90年代の日本企業は多額の債務を抱えていた。返済は滞り、長きにわたって日本経済の足を引っ張った。

■政府介入のタイミング

 バブル崩壊後の日本経済の回復が遅れたのは、日本の政府および中央銀行の政策対応の理解しがたい遅れのせいであるという点に異論はないはずだ。有名なゼロ金利政策が始まったのは、バブル崩壊から約9年後の99年に入ってからだった。だがアメリカの連邦準備制度理事会(FRB)と政府はそれよりずっと迅速に動いた。

 さて、日本的バブル後遺症への警戒論がこれほど欠陥だらけなのにも関わらず、繰り返し論じる人が出てくるのはなぜだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

関税に対する市場の反応、想定されていた=トランプ氏

ワールド

米「NATOに引き続きコミット」、加盟国は国防費大

ビジネス

NY外為市場=ドル対円・ユーロで6カ月ぶり安値、ト

ワールド

米中軍当局者、上海で会談 中国の危険行動の低減巡り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 2
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のために持ち込んだ?
  • 3
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 6
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中