混迷G20に答えを出せない経済学
狂気の沙汰だと、英フィナンシャル・タイムズ紙のマーティン・ウルフ経済論説委員は言う。各国が協調して緊縮政策を取ったりすれば、景気回復の芽を摘みかねない。ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンも同意見。アメリカ経済に必要なのはより大きな景気刺激策であり巨額の赤字国債発行だ。「こんな時に倹約をするのは」と、彼は書く。「国家の未来を危機にさらす行為だ」
だがハーバード大学の経済学者、ケネス・ロゴフの意見は正反対だ。バラク・オバマ大統領の景気刺激策は金融危機のパニックを鎮めるのには役立ったかもしれないが、今や連邦政府の財政赤字は1兆ドルを超えた。ここから更に支出を増やせば「先々債務危機に陥るリスク」が増大する。財政赤字は少しずつ減らさなければならないと、彼は言う。
次に危機がきたら打つ手なし
エコノミストのなかには、一定の条件の下では、財政支出の削減で経済成長を刺激できる場合もあると考える者さえいる。ハーバード大学のエコノミスト、アルベルト・アレジナとシルビア・アーダグナの研究は、富裕な国々では増税より財政赤字の削減に力点を置いた緊縮政策はしばしば景気浮揚効果をもつことを示している。おそらく、赤字削減は金利の低下や将来への信頼回復にも役立ったのだろう。
教科書的なケインズ経済学と同様、マネタリズムも説明に困っている。マネタリズムの考えでは、FRB(米連邦準備制度)が通貨を銀行システムに大量供給すれば、貸し出しが増え投資や消費も増えるはずだ。もし通貨供給を十二分に増やせばインフレにもできる。08年夏以降、FRBは1兆ドルもの資金を銀行に供給したが、期待された効果は何も得られなかった。インフレ率は低いままで、銀行の融資残高はこの1年で2000億ドル以上も減った。大量の資金はただ、銀行が抱え込んでしまったのだ。
経済学者が理解できないことは山ほどある。人々は手に入る情報を有効活用して最良の判断を下すという「合理的期待仮説」の信奉者も、金融危機と経済崩壊は予期できなかった。この理論と現実の甚だしい乖離には不吉な予感を禁じえない。前回の危機には、とにかく金をバラまいて金利を下げ、財政赤字を膨らませることで対処した。だが金利水準は極めて低く財政赤字だけが高水準の今、もし次の危機が起こったらどうなるのだろうか。