郵政公社は公的支援依存症
「黒字化」を約束しながらちょいちょい支援を引き出す郵政公社に議会はキレる寸前。あとは全米に3万4000以上ある郵便局を減らすしかない
土曜配達やめます ネットと不景気にお客を奪われ赤字に転落。再建の切り札として3月29日、週5日配達制を発表したが……。 Shannon Stapleton-Reuters
郵政公社は235年の長い歴史を通して、アメリカ全土に郵便物を配達し、さらに利益を上げてきた。だが、それはもう過去の話だ。2008年に初めて赤字を計上。今年秋の会計年度末にも70億ドルの損失を出し、政府への借金は138億ドルに膨らむ見込み。2020年までに、累積赤字は2380億ドルに達するという。
郵政公社は今、郵便規制委員会にへつらいながら再建計画を練っているが、計画策定のための調査にすでに50億ドル近くをかけている。しかも、そうして導き出した「土曜日の配達をやめる」という解決策は、あまりに単純でバカらしいほどだ。
郵政公社は配達日を週5日に減らすことで、年間35億ドルの経費削減が可能だと主張している。一方、郵政公社を監督する立場の郵便規制委員会の予測は19億ドル程度。いずれにせよ、今後10年間、毎年230億ドルの赤字を垂れ流すことを考えれば、大海の一滴に過ぎない。
郵政規制委員会がこの再建計画を審査するのに6〜9カ月間はかかるだろう。そして計画が承認されれば、今後は議会で審議される。米政府監査院(GAO)が01年に郵政公社を「ハイリスク」な連邦プログラムに認定して以来、議会はたびたび郵政公社の財政危機を取り上げてきた。
郵便料金のさらなる値上げも
この数年、郵政公社総裁のジョン・ポッター(すでに在任9年目で、年俸はなんと84万5000ドル)は議会に対して、何度も公的支援を求めてきた。議会は03年、郵政公社が負担する従業員の年金コストの90億ドル削減に合意。昨年には、退職した職員の医療費に関する負担を40億ドル軽減した。
ポッターは、政府の支援を引き出すたびに公社の黒字化を約束してきた。それだけに、もうこれ以上は我慢できないという議会の言い分は大げさではない。
仮に上下両院が土曜の配達中止案を承認したとしても、実際に週5日配達が始まる11年より前に黒字化が実現する可能性はかぎりなくゼロに近く、郵政公社はその間も赤字を拡大させるだけ。さらに、99年以降9回目となる郵便料金の値上げに踏み切る可能性も高い。
では、週5日配達制は本当に郵政公社を救うのか。実際には、この再建策は万能とは言い難い。郵便の取扱数がさらに減り、郵政公社の崩壊を早めるだけだという指摘もある。
PDFやeメールが全盛の今、郵便は完全に時代遅れな産業に見えるが、それでも年間9000億ドルの巨大産業であるのは事実。その大半を占めるのは、ダイレクトメールやカタログ送付だ。
1888年にシアーズ・ローバックがカタログ第1号を発送してから120年以上、通信販売は今も有効なビジネスモデルだ。だが昨今の郵送コストの上昇を機に、通信販売業者はカタログの完全電子化や民間の配送業者への切り替えを検討している。
全米通信販売協会のハミルトン・ダビソン会長によれば、通信販売業界の配送費は07年に20〜40%上昇したという。土曜の配送停止によって「配送費アップのペースを遅らせられるのなら、残念だが対応可能な解決策として受け入れる」と、ダビソンは言う。
DVDの郵送レンタルが消える日
問題は、土曜の配達停止が配送費削減につながる保証がないこと。郵便公社が郵便代金の値上げによるコスト管理に乗り出した結果、アメリカのカタログ通販業者は06年より8000社減少し、郵送されるカタログの数も06年の200億冊から130億冊に減った。「郵政公社が将来に渡って存続する可能性について懸念している」と、年間2億5000冊のカタログを発送するアウトドア用品大手のLLビーンの広報担当者は語った。