フランスを弄ぶサルコジ経済学
危惧すべき前兆が今年春にプロジェクト候補が公表された「グラン・パリ」計画だ。パリ大都市圏の再整備を目的とする同計画の予算は最低でも350億ユーロ。しかしこれだけの金が(新たな地下鉄を建設し、サルコジの名を後世に残す以外に)どんな成果につながるのかは不明のままだ。
大切なのは経済より選挙
技術革新のための「ビッグローン」も問題だ。サルコジは国民に、国債購入を通じて資金の一部を負担するよう訴えた。国民の資本参加を求める立派なやり方にみえるが、この手法だと借り入れコストが大幅に割高になる。
資金350億ユーロの使途を検討していた大統領諮問委員会は先日、大学の研究活動や「デジタル社会」建設を投資の優先対象にするべきだとの見解を示した。だがOECD(経済協力開発機構)は、こうした政策は「景気回復の特効薬にはならず、財政再建という必須の任務を一層困難にする」リスクを伴うと警告している。
サルコジの出身政党、国民運動連合(UMP)と連立政権を組む新中道の幹部クリスチャン・サンテティエンヌがみるところ、10年3月の地方選の直後にサルコジが重要な改革を強行するのは「ほぼ確実」だ。夏になれば12年の大統領選に向けた活動が始まる。増税や大幅な支出削減に踏み切るタイミングは春しかない。
最近のサルコジは、財政規律重視へ回帰し始めているようだ。11月20日には、「フランスは公共支出の世界王者の座を返上しなければならない」と発言した。
技術革新投資のための新規国債発行はUMPの内紛の種であり、財政赤字への懸念も呼んでいる。あるエコノミストは私的な見解と断りつつ、この政策に見込める最大の短期的効果は、人々の考え方をわずかながらでも改めさせることかもしれないと語る。
とはいえ財政をめぐるサルコジの方針転換には、政治的な意味合いもある。財政赤字をめぐり、サルコジは社会党が与党である地方政府の無駄遣いを集中攻撃している。地方政府の支出は問題のほんの一部であるにもかかわらずだ。
経済的には的外れの主張だが、政治的効果は抜群。これぞ、サルコジの本領だ。
[2009年12月 9日号掲載]