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フランスを弄ぶサルコジ経済学

2010年1月28日(木)14時00分
トレーシー・マクニコル(パリ支局)

 巧妙な政治だ。だが経済的には、長期的影響に無頓着なこうした場当たり的な政策は極めて危険である。サルコジの第1の問題は、政策遂行能力の欠如。彼はフランスでは異例のスピードで数々の改革に着手した。サルコジの1200を超える公約や政策目標の進捗状況を調査したブリュッセルのシンクタンク、トマス・モア研究所によれば、その着手率は80%に上った。だがその多くは、その後本気でやり遂げようとした形跡がない。広く薄く実りのない改革だと、同報告書は指摘する。

 金融危機前にサルコジが取り組んでいた公共部門の無駄の削減では、70億ユーロしか節約できなかった。低所得者層の住宅を整備するサルコジ版「マーシャル・プラン」も、まだ始まっていない。

 さらに深刻なのは、サルコジには真の経済原則がなさそうなことだ。サルコノミクス唯一の原則はご都合主義。リベラル過ぎるという批判も国粋主義者だという批判も的外れだと、トマス・モア研究所の調査を担当したジャントマス・ルシュールは言う。「彼は現実主義者だ。現実主義は戦術にはいいが、戦略には向かない」

 サルコジは戦闘に勝つ柔軟性は備えているが、かつてのロナルド・レーガン米大統領やマーガレット・サッチャー英首相のように、戦争を定義しそれに勝ついちずさはないと、ルシュールは指摘する。

 批判の声はエコノミストのピエール・カユクやアンドレ・ジルベルベルグからも上がる。ベストセラー『サルコジ大統領の不首尾な改革』の共著者である2人に言わせれば、金融危機はサルコジの改革の真の結果を見えなくした。だが実情は「問題だらけ」だと、カユクは指摘する。

気まぐれ政策で財政悪化

『不首尾な改革』によると、大統領就任当初にサルコジが実行した政策は「財政赤字に拍車を掛ける一方で、解決されるべき問題を深刻化した」。その一例が目玉に掲げた公務員年金改革だ。公務員や国鉄職員などが加入する特別年金制度では、民間部門労働者より短い勤続年数で受給資格を得られるなど優遇措置が取られていた。サルコジはその一部を廃止したが、よりコストが高い代替措置を採用する羽目になった。

 サルコジがいくつかの点で成果を挙げているのは確かだ。リストラによって官僚機構を縮小した結果、年間5億ユーロのコスト削減が実現している。

 とはいえサルコジならではの行動のせいで、官僚機構改革の成果は台無しになった。改革に取り掛かった翌年の08年1月、サルコジは突然、国営放送でのコーマシャルの全面廃止を宣言。社会党の従来の主張を横取りした。

 サルコジが記者会見でCM廃止を電撃発表したのは、元スーパーモデルの恋人(現夫人の)カーラ・ブルーニとの派手なバカンス旅行に批判が集中した直後だ。国民の目をそらすには格好の方策だったが、フランス会計検査院によれば、おかげで09年は4億5000万ユーロの歳入減が見込まれている。

 大統領の気まぐれが強いる犠牲はほかにもある。サルコジは最近、自らの財政運営手腕はドイツ政府(あるエコノミストによれば「冷静沈着の代名詞」だ)に匹敵するとの宣伝に努めているが、フランス政府の行動は問題含みだ。

 金融危機に際してサルコジが打ち出した財政出動策は急ごしらえのもので、ドイツと違って将来の財政赤字を見据えた具体的対策に欠けていた。ドイツ政府は抜本的な構造改革にも着手済みだが、フランス政府はいまだに年金問題などで重要な行動を取っていない。

 サルコジの支持率は現在、過去最悪に迫る30%台半ばまで落ち込んでいる。10年3月に地方選を、12年に大統領選を控えるなか、焦るサルコジがさらに無責任な政策に乗り出すのではないかと、多くの専門家は懸念する。

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