最新記事

パソコン

マイクロソフトの失われた10年

「ウィンドウズ7」だけでは変化するネット市場で生き残れない

2009年12月4日(金)13時18分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

 マイクロソフトは10月、新OS(基本ソフト)の「ウィンドウズ7」を発売。さらに自社ブランドの直営店チェーンをアメリカで発足させた。

 投資家はほっと胸をなで下ろしたことだろう。ひどい出来だったOS「ウィンドウズ・ビスタ」がついにお払い箱になる。マイクロソフトを育て上げたビル・ゲイツが一線から身を引いた後のみじめな10年が終わりを告げたようだ。

 ゲイツは00年1月、右腕だったスティーブ・バルマーにCEO(最高経営責任者)のポストを譲った。マイクロソフトは当時、まだ世界で最も競争力の高い会社だった。友人からも敵からも恐れられる存在だった。

 だが時代は変わった。今やマイクロソフトは下手をすると冗談のネタにされかねない。もちろん、いまだにパソコンの9割以上を動かしているのは同社のOSだし、「オフィス」は事務用ソフトの定番。問題はマイクロソフトが新しい分野で出遅れていることだ。

 アップルはiPodやiTunesストアで音楽市場を席巻し、iPhoneで携帯電話市場に進出。検索の王者グーグルはメールサービスのGメールでも人気を博し、携帯電話用OS「アンドロイド」の売り込みに余念がない。

 ネット小売業界に君臨するアマゾン・ドットコムは、クラウド・コンピューティング(ソフトウエアや情報サービスなどをネット経由で提供)の分野でも存在感を増している。

 新しい市場を牽引するこれらの企業と比べると、マイクロソフトの出遅れが目立つ。携帯音楽プレーヤー「Zune」は不発。検索エンジンのBingはグーグルに太刀打ちできるほどではない。携帯電話・情報端末向けOS「ウィンドウズ・モバイル」もぱっとしないし、近くスタートするクラウド・サービスの「Azure」はアマゾンより4年遅れている。

フットワークが重過ぎる

 なぜこんな羽目に陥ったのか。米独占禁止当局への対応でマイクロソフトの経営陣の気が散ってしまったことも一因だろう。だがより大きな理由は、00年1月にゲイツがCEOを辞任したことにありそうだ。以来、マイクロソフトは下降線をたどっている。誰に聞いても、後任のバルマーは頭の回転が速くて有能な人物という評判だ。それでもゲイツにはかなわない。

 ゲイツはソフトおたくだったが、バルマーはビジネス畑出身。バルマーの時代になってからマイクロソフトの売上高は230億ドルから600億ドルに増えた。家庭用ゲーム機Xboxも世界市場全体では健闘している。

 だが技術畑出身でない人物をハイテク企業のCEOに据えるのは問題だったかもしれない。ゲイツはインターネットの脅威を察知したとき、ブラウザ(ネット閲覧ソフト)の「ネットスケープ」を葬り去るために全力を尽くした。当時はまだ、マイクロソフトは柔軟に方向を変え、ライバルをたたく機敏さを持っていた。だがそれ以降、同社のフットワークは重くなった。

 マイクロソフトの動きが鈍くなる一方、ライバル企業の動きはますます加速。ネット企業は少ない資金で設立可能で、成功すれば瞬く間に事業を拡大できる。グーグルもそうした企業の1つ。マイクロソフトが危機感を抱いたときには、はるか先を進んでいた。

 音楽市場でのマイクロソフトの成功を阻んだのはアップルだ。オンラインで曲を買えるiTunesストアを普及させたアップルが、ほぼ独り勝ちの状態だ。

3年前と状況が一変

 マイクロソフトは核となるOSでもつまずいた。「ビスタ」の技術的な問題を克服するのに技術者は3年を費やした。「ウィンドウズ7」はアップルのOSをはるかにしのぐようなものではないが、使いやすいOSなのは間違いない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中