焼け太りウォール街に金メッキ時代、再び
金融危機から1年、ウォール街では19世紀以来の金融資本の集中が加速している。今も差し押さえや失業に苦しむ消費者を尻目に、金融の勝ち組は再び大儲けをし始めた。いったいどこで何を間違えたのか、気鋭の経済史家ファーガソンからの警告
最高益 ゴールドマン・サックスのような「TBTF(too big to fail)」は今や、リスクを取らずに儲けを総取りできる(ニューヨークの本社、08年10月23日) Brendan McDermid-Reuters
強過ぎる金融界は、アメリカ建国以来の問題だった。建国の父たちは、自立した農民と小規模な貿易商による共和制を思い描いていた。ニューヨークが、金融資本と政治資本が一体となって富を崇拝するロンドンのような都市になることだけは避けたかった。
だからこそ、中央銀行の創設には激しい抵抗があり、英イングランド銀行のように強力な中央銀行は今もアメリカにはない(2度つくられて2度ともつぶされた)。1913年に連邦準備制度が発足したときも、猜疑の目で見られたものだ。ウォール街に対する政府の規制も、大恐慌以降70年代までは至って厳格だった。
だが、金融史上でも最大級の危機からわずか1年しかたっていない今、ウォール街は19世紀後半の金めっき時代、銀行家があと1歩でアメリカの支配者になりかけた最後の時代に逆戻りしたようだ。
銀行大手JPモルガン・チェースを筆頭とする巨大金融機関のいくつかは復活し、莫大な利益を上げ、数百万ドルのボーナスを払っている。一方普通のアメリカ人は、毎月数十万人単位で住宅の差し押さえや失業の憂き目に遭っている。それも、巨大金融機関の一部が引き起こした危機のために。
危機の負け組にとって最も腹立たしいのは、小さな借り手と大きな借り手の扱いに生まれた格差だ。職を失い月1500ドルの住宅ローンが返済できなくなった個人は、誰にも助けてもらえない。だが昨年277億ドルの赤字を出した総合金融機関シティグループは、450億ドルの公的資金で救われた。
100年前、人々は金融財閥ロスチャイルドを、アメリカ経済を8本の足でがんじがらめにする巨大なタコに例えた。今度は元投資銀行ゴールドマン・サックスが「巨大な吸血イカ」になぞらえられる番だ。その理由を理解するため、話を12カ月前に戻そう。
投資銀行大手リーマン・ブラザーズが破綻した昨年の9月15日は、ニューヨークが史上最も大きなダメージを被った日として同時多発テロの9・11に取って代わった。それは大恐慌以来、アメリカの金融業界を襲った最も破壊的な破綻劇でもあった。
リーマン・ショックはしかし、その前後わずか19日間に起きた7つの大事件の1つにすぎない。いずれも、1つの時代の終わりを告げる事件だ。
9月7日には、政府系住宅金融大手、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)が国有化された。9月14日には、銀行大手バンク・オブ・アメリカが投資銀行大手のメリルリンチを買収した。
リーマン破綻と同じ日には、安全性が高いはずのマネー・マーケット・ファンド(MMF)の1つが元本割れに陥った。リーマンが発行した無担保の短期約束手形、コマーシャル・ペーパー(CP)を運用会社が保有していたためだ。
翌日には、米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)にFRB(米連邦準備理事会)が最大850億ドルの融資を決めた。AIGはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を通じて巨額の貸し倒れ損失を保証しており、救済しなければ致命的な連鎖破綻が広がると考えたのだ。