最新記事

金融

焼け太りウォール街に金メッキ時代、再び

金融危機から1年、ウォール街では19世紀以来の金融資本の集中が加速している。今も差し押さえや失業に苦しむ消費者を尻目に、金融の勝ち組は再び大儲けをし始めた。いったいどこで何を間違えたのか、気鋭の経済史家ファーガソンからの警告

2009年10月7日(水)14時56分
ニーアル・ファーガソン(ハーバード大学歴史学教授)

最高益 ゴールドマン・サックスのような「TBTF(too big to fail)」は今や、リスクを取らずに儲けを総取りできる(ニューヨークの本社、08年10月23日) Brendan McDermid-Reuters

 強過ぎる金融界は、アメリカ建国以来の問題だった。建国の父たちは、自立した農民と小規模な貿易商による共和制を思い描いていた。ニューヨークが、金融資本と政治資本が一体となって富を崇拝するロンドンのような都市になることだけは避けたかった。

 だからこそ、中央銀行の創設には激しい抵抗があり、英イングランド銀行のように強力な中央銀行は今もアメリカにはない(2度つくられて2度ともつぶされた)。1913年に連邦準備制度が発足したときも、猜疑の目で見られたものだ。ウォール街に対する政府の規制も、大恐慌以降70年代までは至って厳格だった。

 だが、金融史上でも最大級の危機からわずか1年しかたっていない今、ウォール街は19世紀後半の金めっき時代、銀行家があと1歩でアメリカの支配者になりかけた最後の時代に逆戻りしたようだ。

 銀行大手JPモルガン・チェースを筆頭とする巨大金融機関のいくつかは復活し、莫大な利益を上げ、数百万ドルのボーナスを払っている。一方普通のアメリカ人は、毎月数十万人単位で住宅の差し押さえや失業の憂き目に遭っている。それも、巨大金融機関の一部が引き起こした危機のために。

 危機の負け組にとって最も腹立たしいのは、小さな借り手と大きな借り手の扱いに生まれた格差だ。職を失い月1500ドルの住宅ローンが返済できなくなった個人は、誰にも助けてもらえない。だが昨年277億ドルの赤字を出した総合金融機関シティグループは、450億ドルの公的資金で救われた。

 100年前、人々は金融財閥ロスチャイルドを、アメリカ経済を8本の足でがんじがらめにする巨大なタコに例えた。今度は元投資銀行ゴールドマン・サックスが「巨大な吸血イカ」になぞらえられる番だ。その理由を理解するため、話を12カ月前に戻そう。

 投資銀行大手リーマン・ブラザーズが破綻した昨年の9月15日は、ニューヨークが史上最も大きなダメージを被った日として同時多発テロの9・11に取って代わった。それは大恐慌以来、アメリカの金融業界を襲った最も破壊的な破綻劇でもあった。

 リーマン・ショックはしかし、その前後わずか19日間に起きた7つの大事件の1つにすぎない。いずれも、1つの時代の終わりを告げる事件だ。

 9月7日には、政府系住宅金融大手、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)が国有化された。9月14日には、銀行大手バンク・オブ・アメリカが投資銀行大手のメリルリンチを買収した。

 リーマン破綻と同じ日には、安全性が高いはずのマネー・マーケット・ファンド(MMF)の1つが元本割れに陥った。リーマンが発行した無担保の短期約束手形、コマーシャル・ペーパー(CP)を運用会社が保有していたためだ。

 翌日には、米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)にFRB(米連邦準備理事会)が最大850億ドルの融資を決めた。AIGはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を通じて巨額の貸し倒れ損失を保証しており、救済しなければ致命的な連鎖破綻が広がると考えたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スキーリゾートでホテル火災、66人死亡 トルコ北西

ワールド

中国主席と首脳会談、プーチン大統領「戦略的協力の発

ビジネス

グローバル投資家、出遅れ欧州株に資金流入=BofA

ビジネス

独ZEW景気期待指数、1月は10.3 予想以上に低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 4
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブー…
  • 9
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 10
    トランプ新政権はどうなる? 元側近スティーブ・バノ…
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中