アメリカを狂わせた馬鹿マネーの正体
「チープマネー」から「ダムマネー」へ
もう一つ、重要な点がある。
現在進められている刑事捜査の結果、数々の犯罪行為が明るみに出ることは間違いない。しかし、この金融危機で最大のスキャンダルは、詐欺師やイカサマ師の仕業ではない。本当のスキャンダルは、法律と規制の範囲内で行動した人々によって圧倒的大多数の損失が生み出されたことだ。
1.2兆ドルのサブプライムローン市場。62兆ドルの野放しで不透明なCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)市場。経営トップがよく理解できていないのに、上場企業である投資銀行が大量に抱え込んだCDO(債務担保証券)やRMBS(住宅ローン担保証券)。危なっかしいサブプライムローン担保証券を、トリプルA評価の信用度抜群の金融商品に変身させた信用格付けの錬金術。未公開株投資ファンドによる500億ドルの大型企業買収。ヘッジファンドの株式上場――。
すべて、その時点では素晴らしいアイデアに思えた。こうした新しいカラクリを考え出した人々は、天才だ、ビジネスの革命児だともてはやされた。端的に言えば、この人たちは賢い「スマートマネー(Smart Money)」の時代の象徴だと思われていた。
私に言わせれば、2000年代は、低利で多額の金を借りやすい「チープマネー(Cheap Money)」の時代が、「馬鹿(ダム)マネー(Dumb Money)」の時代へ、そしてそれに輪をかけて冷静な判断のできない「もっと馬鹿(ダマー)マネー(Dumber Money)」の時代へと変わっていった10年間だった。
借金というアルコールで狂乱状態になったパーティーが盛り上がるうちに、ダムマネー的な愚かな倫理基準とビジネスモデル、ものの考え方が、アメリカの経済、さらには政治や文化の隅々にまで染み渡っていった。
つまるところ、私たち全員が大がかりな妄想に取りつかれて、いくつかの致命的な誤解をしていたというのが真相だ。
グリーンスパンはこの危機を「100年に1度の信用の津波」と呼んだ。ポールソンは100年に「1度か2度」の事態だといった。1度か2度? 1度と2度では大違いだ。なにしろ今後の1回で消し飛んだ金は、アメリカだけで数兆ドルに達する。
いま私たちにできるのは、真実を理解し、2度と同じ愚行を繰り返さないためにどうすればいいのかを考えることだ。
(9月28日発売のダニエル・グロス著『ニューズウィーク日本版ペーパーバックス 馬鹿(ダム)マネー 金融危機の正体』より抜粋)
『ニューズウィーク日本版ペーパーバックス
馬鹿(ダム)マネー 金融危機の正体』
ダニエル・グロス 著
池村千秋 訳
定価1000円
四六版並製/216ページ
阪急コミュニケーションズ刊(9月28日刊)