グーグルのOS侵攻作戦
マイクロソフトのウィンドウズに対抗する「クロームOS」計画は、パソコンの進化形を問う戦いだ
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検索最大手グーグルが7月7日、無償OS(基本ソフト)の開発計画を発表したことで、グーグルとマイクロソフトの競争はいよいよ全面戦争の様相を呈してきた。ブラウザの「クローム」をベースにした「グーグル・クロームOS」で、OS市場で圧倒的なシェアを握るマイクロソフトの本丸に攻め込むというのだから。
グーグルの発表に、業界専門ブログ「テククランチ」は「グーグルがマイクロソフトに核爆弾投下──爆弾はクローム製」という見出しを掲げた。他のメディアもほとんどが、このニュースを爆撃や攻撃になぞらえる。
そのとおりかもしれない。だが、すぐにドンパチが見られると思ったら期待外れになるかもしれない。クロームOS搭載端末の発売は来年後半とまだ先。普通、発表と同時にサービスを始めたがるグーグルにしては長いリードタイムだ。
クロームOSは当初、市場が急拡大しているネットブック(主としてウェブ閲覧に使われる小型の低価格パソコン)向けになる。パソコン市場全体から見れば、ごくわずかなシェアしかない。そもそもブラウザのクローム自体、ユーザーの獲得に苦労している。公開から8カ月後のシェアはおよそ2%で、4位にとどまっている。
グーグルのOS参入が大事件であることは間違いない。クロームOSは世界中のプログラマーが自由に改良を加えられるオープンソース型なので、技術革新が加速する可能性が高い。また無償なので、クロームOSを搭載したパソコンの価格は低下するだろう。
企業ユーザー獲得で苦戦
グーグルは、クロームOSは数秒で起動し、ウイルスなどの攻撃にも強く、ソフトウエアの更新頻度も少なくて済むと約束する。「今のOSは、ウェブがなかった時代に開発されたものだ」と、グーグルは公式ブログに書いている。「これは、ウェブ時代のOSがどうあるべきかを考え直す試みだ」
誰もが感心しているわけではない。グーグルがマイクロソフトのOS支配を脅かすなどという話は「大げさに騒ぎ過ぎだ」と、ハイテク調査会社ガートナーの調査担当副社長、マイケル・シルバーは言う。「マイクロソフト支配の脅威になる以前に、風穴を開ける可能性が出てくるまでにも長い時間がかかると思う」
グーグルによれば、クロームは最終的にはデスクトップ・パソコンも動かせるようになる(マイクロソフトはコメントを拒否した)。そうなれば、企業はマイクロソフトのウィンドウズの代わりにグーグルの無償OSも選択できる。だが、マイクロソフトの業務用統合ソフト「オフィス」に対抗する「グーグル・アップス」への乗り換えは、無償であるにもかかわらずなかなか進んでいない。