最新記事

自動車

現代自動車がデトロイトを追い抜いた

笑い者だった現代が今は称賛の的。GM、クライスラーは復活戦略を彼らに学べ

2009年7月9日(木)17時55分
ジュリー・ハルパート(ジャーナリスト)

信頼が命 アメリカの最新のブランド力調査でホンダを抜き上位にランクインした現代自動車 Lee Jae-Won-Reuters

 韓国の現代自動車が初の北米市場向け車種「エクセル」の輸出を本格的に開始したのは86年のこと。価格は4995ドルで、当時の他社製の競合車種に比べて1500~2000ドルほど安かった。

 手ごろな価格と、アジア製ゆえの品質への期待から、エクセルはこの年だけで26万3610台も売れた。ところがエクセルは塗装がはげるといった見た目の問題だけではない、さまざまな不具合をかかえていた。

「エクセルが車線変更しようとしたとたん、3本のタイヤが地面から浮き上がったのを見たことがある」と語るのは、コンシューマー・リポーツ誌で自動車を担当するジョナサン・リンコブだ。華々しく北米進出したはずの現代自動車は、一転して自動車業界の笑い者になってしまった。

 今、かつての現代自動車なみに面目を失っているのが米自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーだ。両社とも何とか清算はまぬかれたものの、GMは3つのブランドを手放し、2000近い販売店の閉鎖を余儀なくされた。クライスラーも新たな車種構成で消費者を呼び戻すという困難な課題を背負っている。

 その一方で現代自動車は着実に地歩を固めてきた。6月22日、調査会社のJ・D・パワー・アンド・アソシエイツは「09年米国自動車初期品質調査」の結果を発表。ブランド別のランキングで現代はホンダを抜き、高級ブランドのレクサス、ポルシェ、キャデラックに次ぐ第4位にランクインした。

 市場シェアも今年は4%となる見込み(08年は3%)で、業界全体が落ち込んでいるなかで健闘が目につく。

保証期間の拡大で自信をアピール

 では、現代がやっていて米自動車メーカーのほとんどがやっていないこととは何だろう。それは、品質向上への努力と地道な評価の積み上げだ。

「初期のころの品質は悪かった」と、米現地法人ヒュンダイ・モーター・アメリカでCEO(最高経営責任者)を務めるジョン・クラフチェックは語る。彼によれば同社は全ラインナップの品質向上のためにかなりの投資を行なってきたという。

 だからこそ、現代製の自動車の信頼性について「アメリカの消費者にはっきり示す必要があった」。とクラフチェックは言う。そこで98年までに同社は、保証期間を業界標準である走行距離6万キロを大きく上回る「5年もしくは走行距離10万キロ」に設定した。

 ビッグスリーの経営トップたちが政府の救済を求めて自家用ジェットでワシントンに乗り込んだころ、現代自動車は失業した人には車を返品できるサービスを開始。今年に入ってからは、ガソリン価格が1ガロン=1.49ドルを超えた場合は差額を補填するサービスも始めた。

 J・D・パワーのデービッド・サージェント自動車調査担当副社長は、現代自動車の取り組みはうまくいったと語る。おかげでこの6年の間に「非常に迅速かつ大幅な品質向上」がみられたという。「現代はラインナップを拡大し、10年前には考えられなかったような分野に参入している」とサージェントは言う。

 一般消費者の目には、今の米自動車大手は10年前の現代自動車のように映っている。残念ながら、いったん誤った方向に向かってしまうと、自動車メーカーはなかなか方向転換できない。「長期的な投資が必要だ」と、ミシガン大学のマーティン・ジマーマン教授は言う。

忍耐も時間もないクライスラー

 だが、クライスラーのような企業にはそんな忍耐も時間もない。クライスラーの広報担当ジョディ・ティンソンは、競争力を取り戻すためには品質改善が欠かせないことは理解していると語った。新たな提携相手である伊フィアットとともに、クライスラーは自社製品の信頼性について明確なメッセージを消費者に送る必要に迫られることだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン

ワールド

国際援助金減少で食糧難5800万人 国連世界食糧計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中