最新記事

検索エンジン

打倒グーグル!「アルファ」の野望

天才物理学者が開発した質問回答型の検索エンジン「ウルフラム・アルファ」はここがすごい

2009年6月29日(月)18時23分
バレット・シェリダン

 大それた夢を思い描く人間がひしめくのがシリコンバレー。ネット検索市場の約64%を握る王者グーグルを倒してみせると大志を抱く人たちも多い。

 しかし、マイクロソフトに始まり、08年の夏にサービスを開始した「クール」のような新興勢力に至るまで、挑戦者たちはグーグル帝国の力が及ばない辺境地帯で、お互いの間で領土争いをしているにすぎないのが実情だった。

 そこに、スティーブン・ウルフラム(49)という男が満を持して殴り込みを掛けた。新しい検索エンジンを近々公開すると3月上旬にウルフラムがブログに書き込むと、世界のITウオッチャーが色めき立った。ついに、ポスト・グーグル時代がやって来るのか、と。

 ウルフラムによれば、5月18日に正式公開された新検索サービス「ウルフラム・アルファ」(www.wolframalpha.com)は、ネット上に既に掲載されている情報を見つけ出すだけではない。質問を投げ掛けると、化学や気象学、歴史学、天文学などさまざまな分野の膨大な量のデータや数式を活用して、「答え」をズバリ教えてくれる(現在は英語版のみ)。

 画期的なのは、まだネット上で質問・回答されたことのない問いにも答えられることだ。「01年9月11日に歌手のブリトニー・スピアーズは何歳だった?」という問いを入力する。これがネット上で初めて問われる質問だとしても、ウルフラム・アルファは正解を割り出せる(答えは、19歳と9カ月と9日)。

 おばあちゃんの手作りクッキーを食べて太らないか心配? クッキーの原料をすべて入力して、質問すればいい。すぐにカロリーを計算してくれる。

 真の実力が分かるのはまだ先だが、この新サービスがネット検索の世界を様変わりさせると考えている人もいる。「映画『2001年宇宙の旅』のHAL9000みたいなコンピューター」の開発に一歩近づいたと、人工知能の開発に取り組むサイコープ社の創業者ダグ・レナトは言う。「しかもこのコンピューターはHALと違って、人間に対して反乱を起こそうとはしないだろう」

超理系エンジンの弱点

 それに比べて、従来のグーグル検索は「犬に命令して玄関に新聞を取りに行かせるようなもの」にすぎないと、レナトは言う。

 ウルフラムに言わせれば、ウルフラム・アルファは単なる検索エンジンではなく、「計算知識エンジン」だ。これまでの検索エンジンとは異なり、かなり複雑な問いにも対応できる。

 例えば、「国際宇宙ステーション(ISS)の現在の地球周回軌道上の位置は?」という問い。この正解を割り出すには「複数の微分方程式を解かなくてはならない」と、ウルフラムは言う。それでも、グーグル検索と同等のスピードで答えを表示する。

 ただし現状では、得意分野に偏りがあることも事実。20歳でカリフォルニア工科大学で理論物理学の博士号を取得したウルフラムが生みの親だけあって科学分野には強みを発揮するが、科学や数字に関係のない問いにはお手上げの場合がある。

 この2週間、私はこの新エンジンを試用してみたが、最も頻繁に表示されたメッセージは「あなたの質問にどう対処すべきか判断できません」だった。ローカルな情報には弱く、アメリカのメーン州のロブスター祭りの開催日は教えてくれないし、書籍や映画の粗筋も答えてくれない。

 弱点があることは、ウルフラム自身も認めている。能力は急速に向上していると主張する半面、「計算可能な体系的な知識」にしか対応できないことは今後も変わらないと述べている。

 しかし一般公開の前から、ウルフラム・アルファへの期待感は高まっていた。「コンピューターとウェブの利用の仕方が根底から変わる」とウルフラム自身がぶち上げていたのもその1つの理由だ。実際、ウルフラムは今までも革命を起こしてきた。

 1988年には、数式処理ソフトの「マセマティカ」を発表した。複雑な計算を手軽に行えるこのソフトはたちまち人気が広がり、今やユーザーの数は200万人。ウルフラムの会社ウルフラム・リサーチの年間売上高は推定2200万ドルに達する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中