打倒グーグル!「アルファ」の野望
王者グーグルはどう動く
ある意味で、ウルフラム・アルファはこれに続く当然のステップだ。この新検索エンジンは、マセマティカの計算機能を一般のユーザーに役立てる試みと言ってもいい。「専門家レベルの知識をすべての人が手にできるようになる」と、ウルフラムは胸を張る。
科学と数字に強いウルフラム・アルファは主に専門の科学者や技術者に利用されると考えるのが自然だが、ウルフラム自身はそうは思っていない。どういう人が利用すると思うかと質問すると、いかにも心外そうな様子でこう言った。「みんな。世間の人たち。あらゆる人が利用するだろう」
「ウェブというものがあり、そこでいろいろな情報を検索できるという考え方に人々が慣れていったのと同じように、ウルフラム・アルファというものがあり、そこでいろいろなものを計算できるのだという考え方にも人々は慣れていくだろう」
一方のグーグルは、この新検索エンジンをどうみているのか。同社はコメントしていないが、注意深く見守っていることは間違いなさそうだ。
これまでグーグルは何度か、ウルフラム・アルファのように質問に直接答える機能を取り入れようとしてきた(どの程度本気だったかは疑わしいが)。最近では、公式データを検索して視覚的に表示する新機能を発表している。例えば「失業率」と検索すると、失業率の最新のデータとグラフが画面に表示される機能だ。
興味深いのは、この新しい機能をグーグルが打ち出したタイミングだ。4月末にウルフラムがハーバード大学でウルフラム・アルファの初めての公開デモンストレーションを行うのと同じ日の同じ時間に、それをぶつけたのだ。
「グーグルかマイクロソフトがウルフラムと契約を結ぶかもしれない」と、新興ウェブ企業トワイン・ドットコムの創業者ノバ・スピバクは言う。「ウルフラムのようなサービスを取り込めば、(グーグルは)今まで以上に高度な計算ができるようになる」
「役に立つものをつくるのが好き」
もっとも、グーグルは2万人のスタッフと180億ドルのキャッシュを擁する強力な企業。その気になれば、自力でウルフラム・アルファのような技術を開発できるはずだ。「ウルフラム・アルファがグーグル・キラーになるという予測は現実にならないかもしれないが、逆にグーグルがアルファ・キラーになる可能性はある」と、スピバクは言う。
そのシナリオは、ウルフラムとしては避けたいだろう。この男がこれまで科学者としてだけでなく実業家として目覚ましい成果を挙げてきたことを考えれば、素晴らしいテクノロジーを開発しただけでは物足りない。新サービスをビジネスとしても成功に導いてこそ、大きな称賛を得られる。
具体的にどうやって利益を上げていくのかと尋ねると、コンサルティング収入を得る、スポンサー企業を募るなど、いくつものプランをウルフラムは披露した。「私たちは核となるテクノロジーを築いてきた。興味深いパートナー関係がたくさん生まれると思う」
思惑どおり運べばウルフラムはますます金持ちになるが、金が目当てでウルフラム・アルファを開発したわけではないと言う。「このようなテクノロジーを本当に実現できるのか興味があったのが最大の理由だが」と、ウルフラムは言う。「役に立つテクノロジーだと思ったから開発したいと思った面もある。私は役に立つものをつくるのが好きなんだ」
一大プロジェクトに乗り出した理由が「役に立ちそうなので」では、聞いている側は拍子抜けしてしまうが、これもご愛嬌。さすがの鬼才ウルフラムもPR戦略だけは苦手らしい。何しろせっかくの新サービスに、「ウルフラム・アルファ」などという冴えない名前を付けてしまう男なのだ。
[2009年6月 3日号掲載]