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マグロが消える日
絶滅危惧種指定で食べられなくなる?
海の資源激減を招いた「犯人」は
海の資源激減を招いた「犯人」は
グルメ食材が「絶滅」する日
スターシェフの登場や輸送網の発達で美食ブームは高まる一方。しかしその陰でマグロや高級和牛、フランスワインなど高級食材が思わぬ危機に
果てしない需要 日本は世界のマグロ漁獲高の3割以上を消費している(東京・築地市場) Yuriko Nakao-Reuters
ロンドンのシェフ、アンディー・ニーダムのレストラン「ザッフェラーノ」では、収穫期の10〜11月になると、白トリュフを散らしたフォアグラのリゾットに客が舌つづみを打つ。100グラムで250ポンド(約5万円)近くする白トリュフも、ニーダムの店では「今シーズンのものはいつ届くのかと、客がわざわざ尋ねてくる」ほどの人気ぶりだ。
パスタや牛ヒレ肉の上に散らしたり、ホタテの貝柱に挟んだり。芳醇な香りと味で、トリュフは世界のグルメを魅了してきた。19世紀のイタリアの音楽家で、美食家でもあったロッシーニは、トリュフを「キノコのモーツァルト」と呼んだ。「味覚だけでなく、すべての感覚に訴える。あんな食材はほかにない」と、ニーダムは言う。
だが、トリュフはじきに世界中のレストランから姿を消してしまうかもしれない。古くからの主要産地フランスでは、20世紀初めには800トン近かった収穫量が04年はわずか15トンに減少した。
トリュフが育たなくなったわけではない。育てる人間がいなくなってしまったのだ。フランスでは今、伝統食材を担う小規模農家が消滅しつつある。「小さな農家をやりたがる人はいない」と、フードライターのマシュー・フォートは言う。「働く時間は長いし、儲けは少ない。バハマでの休暇もありえない」
地球温暖化が伝統的産地を脅かす
トリュフだけではない。世界では今、フォアグラやキャビア、マグロやフカヒレなど、ありとあらゆるグルメ食材がさまざまな理由で重大な危機に瀕している。地中海では「マグロの王様」であるクロマグロの乱獲が進み、資源が激減。キャビアを産み出すチョウザメも、水質汚染や乱獲によってワシントン条約の対象種になるほど減少している。
中国では、偽物の上海ガニが氾濫。アメリカや台湾では質の劣る外国産「コーべビーフ」が出回り、日本が誇る神戸牛のブランド価値が失墜しつつある。フランスのワイン産業は斜陽化に怯え、フカヒレやフォアグラは動物愛護団体から集中砲火を浴びている。
かつてこうした食材は、限られた地域の人々や一部の美食家しか味わえなかった。だが輸送網や保存技術の発達、貿易障壁の撤廃などで、今では世界のどこでも入手できるようになった。
その結果、収穫量やブランドを厳しく管理することがむずかしくなった。このままでは、フォアグラのポアレやマグロのトロのあぶり焼きは高級店のメニューから姿を消してしまうかもしれない。食事を楽しみに中国を訪れても、上海ガニやフカヒレ料理は味わえなくなってしまうかもしれない。
トリュフの場合、地球温暖化も大きな脅威だ。03年の夏、フランスでは異常な暑さが続き、5〜6月に降雨が必要なトリュフの収穫量はさらに激減した。「あの年は本当にひどかった」と、今ではイギリスで一人しかいなくなったトリュフ狩りのプロ、ナイジェル・ハデンペートンは言う。「長期的にみると、トリュフ産業全体が滅びかねない」
日本マネーで潤う欧州マグロ産業
スペインやイタリアなど地中海沿岸諸国では、クロマグロの畜養が盛んに行われている。天然魚をいけすで太らせてから出荷する畜養マグロは、大半が日本に輸出される。脂分の豊富な餌を与えてトロの分量を増やせるので、儲けも大きい。畜養用天然魚の漁獲量は、02年の1万5000トンから04年には2万2500トンに増えた。
しかしこの盛況ぶりが乱獲を招いている。国際自然保護連合は、大西洋のクロマグロをジャイアントパンダと同じ絶滅危惧種に指定している。このままでは「地中海のクロマグロは数年で悲劇的な状況に陥りかねない」と、世界自然保護基金(WWF)のパオロ・グリエルミは言う。