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ロバート・ノバク(アメリカ/コラムニスト)
2003年にCIA工作員の身元情報をスクープした際は米政界が大騒ぎに
2003年10月1日早朝、コリン・パウエル米国務長官のもとにリチャード・アーミテージ米国務副長官から緊急連絡が入った。新刊『傲慢----イラク戦争の混乱と醜聞、売り込みをめぐるインサイドストーリー』(クラウン社刊)によると、アーミテージは新聞に載ったロバート・ノバクのコラムを自宅で読み、あわてて電話してきたのだ。
ノバクは数カ月前の別のコラムで、イラク戦争を批判している元外交官ジョセフ・ウィルソンの妻バレリー・プレームはCIA(米中央情報局)の工作員だと暴露。全米中が騒然となり、プレームの身元をリークした「犯人捜し」が始まった。
当のノバクは沈黙を守っていたが、この日のコラムで主要な情報源はある「政府高官」であり、この人物は「党派色むき出しの闘士タイプ」ではないと書いた。コラムを読んだアーミテージは衝撃を受けた。誰のことかすぐにピンときたからだ。パウエルにかかってきた電話の声は「ひどく困惑していた」と、ある情報筋は言う。「まちがいなく私のことだと思います」と、アーミテージはパウエルに告げた。
次の瞬間から、国務省は大騒ぎになった。数日前、プレームは秘密工作員だという事実をCIAから知らされた司法省は、刑事事件として捜査を開始していた(工作員の身元を公にするのは犯罪)。
数時間後、ウィリアム・ハワード・タフト4世国務省法律顧問は、アーミテージがこの件に関する情報をもっていると司法省側に通告。翌日、FBI(米連邦捜査局)と検察官の取り調べが行われた。
アーミテージは、機密扱いの内部メモにあった情報をノバクに提供したことを認めた。プレームがCIAで大量破壊兵器問題を扱う仕事に就いているという情報だ(メモには、秘密工作員とは書かれていない)。アーミテージが国務省でノバクと会ったのは03年7月8日。ノバクが最初のコラムを発表する数日前だった。
軽いおしゃべりのはずが
ワシントンでは噂好きで通っているアーミテージは、自分の行動がもたらす影響を深く考えなかったようだ。「私がこの問題を引き起こした張本人なのかもしれない」と、後にアーミテージは国務省の情報部門トップだったカール・フォードに語った。「彼はひどく動転していた。本人は軽いおしゃべりのつもりだったんだろう」と、フォードは『傲慢』の中で述べている。
しかもアーミテージが情報をもらした相手は、ノバクだけではなかった。ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード編集局次長も、03年6月にプレームの身元を知らされていたという。アーミテージがウッドワードに情報をもらしたのはノバクと話をする3週間前だった。
アーミテージ自身は先週、アシスタントを通じて、コメントすることはないと語った。ノバクは、「情報源の身元は本人が名乗り出ないかぎり、私のほうから話すことはない」と繰り返している。
アーミテージの同僚や友人、この問題に直接かかわった弁護士の話から判明した事実は、皮肉な側面をもっている。ブッシュ政権批判派はこの情報漏洩について、政敵をたたくためなら手段を選ばないホワイトハウスのやり口を象徴する事件だと主張していた。
だが、アーミテージは政権内の数少ない穏健派であり、上司のパウエルとともに、戦争に突き進むジョージ・W・ブッシュ大統領の姿勢に強い懸念をいだいていた。
ベトナム戦争に志願兵として参加したアーミテージは、従軍経験がないディック・チェイニー副大統領らのタカ派を見下す発言を繰り返していた。怒りをあらわにしてホワイトハウスの会議から戻ってくることもよくあった。
国務省が秘密にした理由
パウエルの首席補佐官だったラリー・ウィルカーソンはこう振り返る。「ある日、彼のオフィスへ入ると、彼は振り向いて言った。『あいつらは、銃弾が耳の横を通過する音を聞いたこともない。全員、従軍経験ゼロのくず野郎だ』」
もっともホワイトハウス当局者も、プレームの情報をメディアに流していた。イラクに関する秘密情報の扱い方をめぐり、ブッシュを公然と非難していた夫ウィルソンの信用を傷つけるためだ。カール・ローブ大統領次席補佐官は、プレームがCIAで働いている事実をノバクのために確認し、数日後にはタイム誌のマシュー・クーパー記者に同じ情報を提供した。
この事件では、副大統領首席補佐官だったI・ルイス・リビーが偽証や司法妨害などの罪で起訴された。パトリック・フィッツジェラルド特別検察官はアーミテージを徹底的に調べたが、起訴は見送った。ノバクとウッドワードに情報を伝えた時点で、プレームは秘密工作員だと知っていた証拠が見つからなかったからだ。
国務省のタフト法律顧問はアーミテージの関与がわかったとき、大統領法律顧問のアルベルト・ゴンザレスに情報を知らせるべきだと考えた。だが、パウエルとその側近たちは、ホワイトハウスがブッシュのイラク政策に気乗り薄な国務省に恥をかかせようとして、ノバクの情報源はアーミテージだとメディアにリークするのを心配した。
そのためタフトは、国務省がある程度の情報を司法省に提供したことだけをゴンザレスに知らせ、アーミテージの名前は伏せた。タフトは詳しい情報を知りたいかと尋ねたが、ゴンザレスの答えはノーだった。だからタフトも、それ以上のことは教えなかった。
こうしてアーミテージの関与は秘密のままになった。これだけ「ホットな」情報がリークされないのは、ワシントンでは極めつきの珍事といっていい。
[2006年9月 6日号掲載]