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岐路に立つEU
リスボン条約発効、EU大統領誕生で
政治も統合した「欧州国家」に
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死に体EU憲法の蘇生法
批准プロセスはフランスなどの否決で頓挫していたが復活に向けた協議再開の機運がようやく高まりつつある
EU(欧州連合)憲法をご記憶だろうか。かつて、この憲法はEUの悩みを解決する処方箋のようにみえた。憲法ができれば「より民主的で透明性が高く、効率的な」EU運営が保証されるはずだった。
その実現に向け、「ヨーロッパの将来に関する会議」は1年以上にわたって折衝を重ねた。だが、まとまった草案は妥協の産物で、意味不明ですらあった。
フランスとオランダは05年に憲法の賛否を問う国民投票を実施。憲法そのものよりも、自国政府への国民の不満が噴出する形となり、批准は否決された。全加盟国が批准しなければ憲法は発効しないため、当面、発効の見通しは立たなくなった。
その後、事態の打開をめざす目立った動きもなく、EU憲法は放置されてきた。だがここに来て、復活の機運が高まりだしている。
今年前半のEU議長国であるドイツのアンゲラ・メルケル首相は、憲法協議の再開に強い意欲をみせている。メルケルは先週、EU憲法発効への道は欧州の未来にとって不可欠の「ロードマップ」だと、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で語った。
国民投票には敬遠ムード
だがメルケルの努力で、むしろEU内の亀裂が広がりかねない。そればかりか、EUの運営がいま以上に非効率的で非民主的、秘密主義的になるおそれもある。
協議再開に向けた動きを受けて、EU内部には早くも対立する陣営が形成されている。現実主義陣営(イギリス、フランス、オランダ、ポーランド、チェコ)は、大統領ポスト新設などの主要な規定を簡潔な条約の形で発効させる方法を提案している。
一方、この5カ国以外のほぼすべてのEU加盟国は、「連邦制国家」をめざすという夢を捨てていない。この陣営は先週、スペインで憲法発効に向けた会合をもった。
対立軸はほかにもある。フランス社会党の大統領候補セゴレーヌ・ロワイヤルは、中身は明確ではないものの「社会的な結びつきの強い欧州」をめざすべきだと提案。ゴードン・ブラウン英財務相ら自由市場主義者は、EU市場のさらなる自由化を求めている。
最も重要な対立軸は、伝統的なエリート主義的意思決定プロセスに固執するか、民主的な改革を進めるか、だろう。メルケルは憲法協議に向けて外交官を各国に送り、根回しさせているが、改革派は、こうしたやり方は「密室外交」への回帰だとして反発している。
今やEUの運営を「民主化」すべきだという議論は下火になり、国民投票で人々の意思を問うやり方にも敬遠ムードが漂う。
民主化にこだわるダニエル・コーンバンディ欧州議会議員は本人も認めるように、荒野でたった一人で叫んでいるようなものだ。それでも彼は「公開討論、開かれた会議、投票が必要だ」と力説する。
「EU式民主主義」の限界
今では、憲法制定の旗振り役の一人だったイタリアのジュリアノ・アマート元首相も、国民投票ではなく、各国の議会で批准される簡潔な条約の形で、憲法草案の規定を生かせばよいという立場だ。
皮肉なことに、各国の指導者は憲法をなんとかせねばと思っているが、政治的なリスクがあるために、思い切った動きが取れない。
ドイツの世論は「連邦制」を支持している。そのため、メルケルはおおっぴらに現実主義路線を取るわけにはいかず、壮大なビジョン(そのビジョンがすでに死んでいても)を掲げる志高い指導者を演じなければならない。
フランスでは、与党の大統領候補ニコラ・サルコジは、国民投票ではなく、議会で批准する方式を取ると主張。一方、ロワイヤルは国民投票をもう一度行うと表明している。イギリスは、世論が欧州統合に懐疑的なため、国民投票の実施は避けたい考えだ。
このままでは、何も決まらない手詰まり状態が続きかねない。「EU式民主主義」のマイナス面が浮き彫りにされそうだ。
[2007年2月 7日号掲載]