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by トバイアス・ハリス

2009.09.14

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民主党の「円ナショナリズム」という火遊び

民主党の幹部がドルの安全性に不安を表明したが、「火遊び」は中国をも刺激しかねない

2009年9月14日(月)18時16分

[2009年5月14日更新]

 民主党の「次の内閣」(影の内閣)で財務相を担当する中川正春衆院議員の発言がマーケットを揺るがしている。

 5月12日付の英BBCの報道によると中川は、民主党主導の新政権が誕生すれば「円建て(の米国債)は購入するが、ドル建てでは購入しない」と発言したという(このBBCの記事が日本の政権与党を自民党ではなく「自由党」と誤記しているのはいただけないが)。

 民主党の幹部がドルの安全性に不安を表明した――この報道に外国為替市場は敏感に反応し、相場では円高・ドル安が進行した。

 次の総選挙で民主党政権が誕生する可能性は小さいと、この記事でBBCは指摘している。しかしそう決め付けるのはまだ早い。小沢一郎代表の政治資金スキャンダルで民主党が大きな痛手を被ったのは事実だが、政権交代の可能性が消えたわけではない。

 しかも、中川と同じようなニュアンスの発言は現政権の主要閣僚からも飛び出している。与謝野馨財務・金融・経済財政担当相は5月3日、東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)財務相会合で、ASEAN諸国に最大6兆円規模の円資金を緊急供給する支援策を約束した。具体的には、日本政府が保有するドルを円に換えて融資することになる。

 現実問題として、これほど大量のドルを日本政府が売却できるかは疑わしい。しかし中川や与謝野の発言からうかがえるように、政府が大量のドルとドル建て米国債を保有していることに日本の政治指導者が懸念を募らせ始めたことは確かなようだ。

 いま日本の政治指導者がとりわけ神経を尖らせているのは、中国の動向だろう。世界で最も大量の米国債を引き受けているのは日本と中国。両国ともに、ドル建て米国債から逃避するとき相手に遅れを取りたくないはずだ。

 この問題で日本と中国は深刻なジレンマに直面している。米国債の引き受けを拒めば、アメリカの景気回復の足を引っ張り、自国の経済にも悪影響が及びかねない。しかしそうかといって、大量の米国債を購入し続けた揚げ句、アメリカの放漫財政のツケを払わされるのは避けたい。

 アメリカが債務負担軽減のために低金利政策を推し進める結果としてドル安が進行したり、極端な場合は債務の返済不能に陥ったりすれば、米国債(特にドル建ての米国債)を大量に保有する日本と中国は大打撃を被る。アメリカ政府の台所事情の厳しさを考えれば不安は拭えない。

 では、中川が言うように、民主党主導の政権が誕生すれば、ドル建て米国債の引き受けを本当に拒否するのか。中国政府に先んじて思い切った行動に出るのか。

 中川の発言を額面どおりに受け取るべきではないと、私は思う。その大きな理由は、民主党がアメリカを敵役に仕立てて大衆のナショナリズムに訴えかける戦略を実践している面があることだ。野党のうちはともかく、実際に政権を担当したとき、それまでに言ったことをすべて守るとは限らない。

 それに、中川の発言が果たして党の方針を代弁したものなのかという問題もある。民主党と組んで政権交代を目指す国民新党の亀井静香代表代行は5月13日、新しい政権が誕生しても米国債を積極的に購入し続けると米高官に約束したと記者会見で語った。亀井の言葉がそのまま「新政権」の方針というわけではないだろうが、中川発言の重みが弱まったことは確かだ。

 それでも、民主党のやっていることが危ない火遊びである可能性は否定できない。アメリカとの関係はもとより、中国との関係も緊迫しかねない。中国は、ドル建て米国債からの脱出競争で日本に先を越されはしないかと目を光らせているはずだ。

 この一件で分かったことは、日本の政界でナショナリズムが自民党保守派の専売特許ではないということだ。民主党の中川正春が主張する「円の国際化」(国際通貨としての円の地位強化)が、自民党の中川昭一前財務・金融担当相の持論である日本核武装論に比べてナショナリスティックでないと言えるだろうか。

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